映画雑記帳47「「ミーアキャット」感想」思い出エッセイ〔158〕

 「ミーアキャット」(監督:ジェームズ・ハニーボーン、ナレーション:ポール・ニューマン、三谷幸喜(日本語版)、制作:BBCフィルム、)。原題も“the Meerkats ”

いい映画でした。本当に。
お子さんと一緒に、或いは学校の映画鑑賞に最適だと思います。勿論大人にも。

ポール・ニューマンが最後に選んだ仕事として、ナレーションを担当と聞いて、楽しみにしていましたが、私が観たのは日本語版で、三谷幸喜さんでした。
声もいいし、話し方も画面の印象と合っているというか、自然な感じで、こういうネイチャー・ドキュメントには、日本語のナレーションの方がいいのかも知れません。

ミーアキャットと言えば、何と言っても、あのヒューッと立つ姿。それも一匹ではなく、何匹も次々と立つ、大きな目でじっと見たり、辺りを見回したり、それが印象的、或いは印象の全てだったとも言えます。

この小動物の存在を知ったのは、随分前なのに、私は今日に到るまで、名前と立ち姿しか知りませんでした。
私は、結構動物好きで、旅行に行くと、そこの動物園に行ったりして、日本で名前の知れた動物は大体見ていると思っていたのですが、このミーアキャットだけは見たことがないことに、今日気がつきました(上野動物園にいるそうですが)。

実を言うと、スーッと立つ、それだけが取り得の(人間の見た目からは)、しかも立つのも意味なく立つのでは、などと思っていました。
何しろ可愛いから、テレビの画面に出て来れば、コマーシャルでも釘付けになって見ていましたが、それだけで、何十年も過ごして来たようなものです。

この映画は、ミーアキャットという名前と立ち姿しか知らない者に一気に、彼らの全てを教えてくれます。

以下、ミーアキャットの自己紹介のようなことを、この映画の公式サイト、映画紹介のパンフレット、Wikipedia、他の引用、参照により簡単に書いてみます。

ミーアキャット(meerkat)はマングース科。別名スリカータ。
私は今日まで、猫と関係があるのかと思っていましたが、スペルはcatではなくkatです(但しネコ亜目とあります)。
生まれた時は7センチ位で、成長しても30センチ位。体重は1キロあるかないか。
生息場所は、アフリカ南部、カラハリ砂漠。国名で言えば、南アフリカ、アンゴラ、ボツワナ、ナミビア。
土中にいくつかの部屋がある横穴を掘って、棲家とする。
昆虫、サソリ、小型爬虫類、木の根っこなどを食べる。

この映画は、ミーアキャットのある家族に十数匹の赤ちゃんが生まれた時から始まります。
ミーアキャットの毛の色は、薄茶色ですが、体全体にうぶ毛が生えていて、その一本一本が光に照らし出されて、風にそよぎ、金色に輝く映像が、この映画は、こういう細部まで毛の一本も疎かにせず映し出す努力をしたのだと思わせます。

カラハリ砂漠の他の動物や風景、自然を捉えて、真に美しい。
この撮影をした年は、この地域では乾季が最も長く続いて、動物達は苛酷な日々を過ごしますが、それだけに、凄まじい雷雨と共に訪れる雨季の始まりは、神の為せる業とも感じさせられます。

この映画では、生まれたばかりの赤ちゃんの一匹をコロと名付け、成長するまでの毎日を追います。
ミーアキャットは、言わば大家族制をとっていて、お母さんが何度かの出産で生む赤ちゃん達が兄弟となり、数十匹が一つのグループとなっています。
子供を産む雌は一匹と決められていて、一生に生む子どもの数は70匹前後だそうですが、大人になるまで生き延びられるものは多くないとか。

赤ちゃん、子どもの中は、両親や兄達の絶対保護下にあり、エサをもらうことは勿論、ミーアキャットとして生きる上に必要な教育も仕込まれます。

親や目上のミーアがどんなに愛情深く子ども達に接するか、その姿がどれほど微笑ましいというか素敵というか、言葉ではなかなか語れません。
独特の鳴き声を挙げます。キャッ、キャッとか、アーとか、アー(下げる)、アッ(高音)、こんなことを書いていても詮ないことですが、鳴き声で喜怒哀楽や呼び声、注意、警戒、威嚇、様々なことを表しているようです。

両親はエサを取りに行くため、長く巣(というより家ですね)を空けるので、その間弟達を守り、教育するのはお兄さんです。
兄さんは、コロとは、かなり体の大きさも違い、親が留守の間の一家の長としての風格も備えています。

コロは兄さんのように木に登れないし、自分の丈より高い草叢も歩けない。
油断すると、仲間からはぐれそうになってしまう。
そんなコロにいち早く気がついた兄さんは、他の子どもたちを一時置いても、コロを連れ戻しに行く。
弟達の世話をしたり、見張りも怠らない。
兄さんの立ったり座ったりは、他の仲間よりずっと多いように見えます。

立つのは、日光浴の意味もあるようですが、見張りのためにも重要なポーズです。
立って、様子を見たり、コブラのような大敵を全員で立って、囲み、退散させてしまうこともある、命がけの威嚇のポーズでもあります。
長く立っていると、さすがのミーアも疲れたり、眠気を催すのか、時々突然へたり込み、その下に小さい子どもがいたりすると、勿論ギャフンとなってしまうわけです。

一族は本当に仲がいいのに、他のグループとは敵対関係で、縄張り争いも激しく、一歩踏み込んだら戦うぞという宣戦布告の時も立ちます。
つまり、ミーアキャットは、あらゆる時に立ち、それぞれが意味を持っているのです。

エサの取り方、特にサソリのような危険なエサの取り方というか、やっつけ方も兄さんから教わります。
毒のある尻尾を避けて、パンチを喰らわしたり、噛み付いたりして、グッタリしたところをガツガツと食べます。

ミーアキャットには敵も多い。自分より大きいものは全部敵と言っていいかも知れません。
乾季が長引いて、獲物が獲れず、体力も衰えると、ライオンもミーアキャットを襲います。
コロの巣の近くには、一頭の冴えない雄ライオンがへばりついていて、隙あらばと狙っています。

バッファローだのキリンだのの群れに遭遇すると、踏み潰されないようにするのも一苦労です。
ミーアキャットを獲物とする最大の敵は、ゴマバラワシという大鷲です。
それから、蛇。大きなコブラに執拗に狙われます。

コブラは、他の動物と違って、住居の横穴にまでシュルシュルと入り込み、部屋という部屋、ミーアキャットを探し、いないと分かると素早くターンして、別の方向へ向かい、追い詰める。この場面も、住居の横穴に赤外線カメラを設置したそうですが、大袈裟でなく、手に汗握る場面です。

そして、遂にはこのコブラを、全員で立って、取り囲み、威嚇し、パンチを喰らわしたり、噛み付いたり、信じられないほど、一歩も引かない攻勢で立ち向かう。
遂にはコブラは退散してしまうのだから、驚きです。

あのつぶらな瞳と一見茫洋とした立ち姿で、ミーアキャットは自分より何十倍も強い敵と、一丸となって戦うのです。想像してみてください。
哀れ、コブラはゴマバラワシに捕らわれ、巣の中で待つ雛鳥のエサとなってしまいます。

しかし、このワシは執拗にコロ一家を狙います。
巣穴に潜っても、爪で土をかき出し、今にも引き摺り出されそうです。

そして、ある日、目にも止まらぬ速さでコロ達目がけて、襲い掛かり、その瞬間、兄さんが・・・
この場面は声が出そうになりました。涙がこぼれました。

ちょっと分からなかったのが、エサを獲りに出かけたという両親が帰って来るのですが、そのエサというのがどれなのか、私が見過ごしたのかも知れませんが、袋に入れて持って来るわけではなし、或いは次の出産に備えて、自身が充分食べるということなのか。

それとお父さんという方を見分けられなかったこと。
ミーアキャットは敏捷に動く動物ですから、私がついていけなかったのかも知れません。
乾季が続いて、エサが獲れず、飢えている時、母親も自分のエサを子に与えないという場面が出てきます。

両親が巣を後にすること自体が子離れ宣言なのではないか。或いは出産する雌は一匹ということから、ある時期に成長した子どもに幼い子の世話、教育全てを任せて、自分は次の世代を産むことに専念するのか、この辺りは、私の単なる推測ですが、見落としかも知れません。

コロは、もう背の高い草叢も歩けるし、木にも登れる。でもまだ成人?したとは言えない。
好奇心の塊で、ある日、仲間からはぐれて、迷子になってしまいます。

この時のコロの不安気な様子。一人ぼっちで一夜を明かす。
あちこちを彷徨い、危険な目にも遭いながら、必死に家族を探す。
そして、懐かしい臭いを嗅ぎ当てます。
あ、あそこに家族がいる。家族もコロに気がつく。

しかし、最後の難関、ライオンが道を遮っている。
コロは必死。家族もやきもき。
ライオンがゴロンと寝返った瞬間、コロは駆け抜けて、家族の元へ帰る。

私がどのように書いても、映像の素晴らしさ、初めて知った、ミーアキャットの、人間も学ぶところがある、家族愛に溢れた、何とも愛らしい、それでいて長幼の序の下、生活のルール、生きることそのものを教わりながら、一人前に成長して行く、その生き方、生態の百分の一も伝えられません。しかも全編にユーモアが溢れています。
立ち姿の可愛い動物としか捉えていなかった私には衝撃でもありました。

撮影クルーは、コロの家族と密接に付き合いながら、困難な撮影を続けたとあります。
人懐っこい動物でもあるようです。

ゴマバラワシはミーアキャットの天敵ではあるが、なかなか見つからなかった、それが偶然巣を見つけた、ワシがミーアキャットを運んでいる姿も、とスタッフの一人の言葉が紹介されています。もしかして、兄さんは現実には無事だったのかも、と邪道とも言えることを想像してしまいました。
それほど、私は、コロとその家族に入り込んでしまったのです。

もう一度繰り返すと、子供にも大人にも、本当にお薦めの映画です。
殺伐とした世の中というと言い過ぎでしょうけど、家族助け合って、並みでない困難、危機を乗り越えるミーアキャットの姿から、励ましさえ得られると思います。

この頃テレビも大型で、画像も鮮明だし、とちょっと思ったのですが、パンフレットの表紙に、“narration PAUL NEWMAN”とあり、その下に、ニューマンの言葉なのでしょうか、
“Heroes so small. They have to be seen on the big screen.”(主役はほんとに小さい。絶対に大きなスクリーンで見るべきだ)とありました。その通りかも知れません。  《清水町ハナ》

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