映画雑記帳37「「奇跡のシンフォニー」感想」思い出エッセイ〔128〕

 「奇跡のシンフォニー」(フレディ・ハイモア、ケリー・ラッセル、ジョナサン・リース=マイヤーズ、ロビン・ウィリアムズ、監督;カーステン・シェリダン)。原題は、“August Rush”。オーガスト・ラッシュとは、主人公の少年の芸名です。天才的な音感を持った少年が、両親と引き離され、運命に翻弄されながら、最後、オーケストラの指揮者となり、めでたし、めでたし、の物語です。

とにかく、気楽に、のんびりとした気分で観て、しかもいい気分になりたいと思って、観た映画です。ところが、見始めて、ストーリーの展開に、やはり、子供向けのお伽噺だったか、と少々がっかりし、退屈にもなり始めました。

それが、どの辺からか、急に画面に入り込み出した。そして、最後癒された気分になりました。硬派の方はともかく、お薦めの映画であるという結論に達しました。

主役の少年が、まずは、ギターで、並々ならない才能を見せる辺りから、私も、この映画に入り込んだように思います。
つまり、この映画の音楽が素晴らしい。これは、音楽映画である。
一見ありきたりの、最後の再会の場面で、あれほど感動したのは、ストーリーよりも、音楽の力が、最後に向かって、頂点を極めたのだと、後でそう思いました。

何しろ、通俗的な語り口で言うと、偶然出会った、音楽家の若い男女が、一夜の愛を交わして、再会が叶わないまま、女性は、赤ちゃんを産み、しかも死産だったと告げられる。

子どもは、孤児院(養護施設)に預けられるが、音楽に天才的な才能を持ち、様々な苦労を重ねながら、最後には、オーケストラの指揮者になる。
両親とも会えて、大団円という、絵に描いたような少年・少女小説、或いは、「クオレ」の世界とでも言いたい感じの物語なのですが。

最後に書くべきことを書くと、最近私は、このテの映画で泣くということは、殆どないのに、終わった時、不覚にも、涙が溢れました。
最後のキャスト紹介で、立つ人が誰もいなかったのは、皆さん、それぞれ、心を打たれたのだと思います。嗚咽している方もいました。

単なるお涙頂戴もの(古臭い言葉を連発していますが)ではなく、人の心の原点を動かす力を、音楽の力を得て、最後の場面に結集したという感じです。

主役の少年、エヴァンの、フレディ・ハイモアが本当にいいですね。
「チャーリーとチョコレート工場」に出ていたそうですけど、品があって、しかも精神的なタフさを秘めている。
役柄上、子どもながらに達観しているような様子があるけど、もう少し前に、「小公子」のセドリック役をやらせてみたかった(これも古いかな)。

ギターなども、弾き方を相当練習したのではと思えます。
周囲の音も、自然現象も、全て、音楽として捉える、特殊な才能を持っている。
音楽の素養はゼロなのですが、音階を教えてもらっただけで、教会のパイプ・オルガンを弾きこなす才能を発揮する。
交響曲の指揮者に成長するのは、自明の理のようなものなのです。

両親も音楽家で、母親は、チェリスト。父親はロック・シンガーです。
この二人の俳優も初めて見ましたが、父親、ルイス役のリース=マイヤーズ。野性味のあるオーラがあって、魅力的です。
母親、ライラ役のケリー・ラッセル。可愛いけど、もうちょっと、品のある美貌の人を当ててもよかったかも知れない。

フレディはロンドン出身、マイヤーズも、そして女性監督のシェリダンも、アイルランドのダブリン出身ということで、アメリカ出身のラッセルに、ちょっと異なる雰囲気を感じたのかも知れません。尤も、映画の設定でも、ルイスは、アイルランド出身のロック・グループに属しているのですが。

私は、昔から、ギターは結構好きな方ですが、何しろ、系統的に聴く方ではなく、思い出したようにコンサートに行く程度です。安いのを買って、独習したこともありますが、お定まりの曲がやっと弾ける位で、やめてしまいました。CDは、少しは持っていますが、ミーハー的な選曲です。

ですから、エヴァンが、最初にギターを手にし、弦を弾き、ギターを叩くという演奏は、私には、目新しいと言ってもいいのですが、テレーっと見ていたのが、その場面で、はっと目を覚ました。それだけの力を持つ演奏だったのでしょう。

それから、ルイスのボーカルは誰なのか、ロック・シンガーと言っても、上記のように、アイルランド出身という設定ですから、詳しいことは分かりませんが、ロックという響きより、例えば、民謡を取り入れたような、不思議な魅力を持つ、力強い、しかし切々たる響きに虜になりました。

しかも、それが、同じ場面、別の場所で、ライラが弾くチェロと呼応している。
二人が求め合っている気持ちを、チェロとロックという全く異なる分野の音楽を重ねることで、表現している、斬新な試み(音楽については、発言できないので、素晴らしかったとか、書いた方がいいかも知れませんけど)と感じました。

子供向けのお伽噺などと書いたのに、いつの間にか、紹介することにも夢中になっています。

エヴァンが、父親と知らずに、ルイスと、ギターを合わせる場面もよかったですね。
この場面で、ロック・シンガーである父親は、息子が、シンフォニーという、自分とは縁のない分野だけでなく、自分のロックも理解するし、その演奏にも素晴らしい才能を持っていると実際に知るということになります。

ロビン・ウィリアムズが、音楽の才能のある、貧しい子ども達を集めて、ストリート・ミュージシャンに仕立て、稼がせる、チョイ悪ボスを演じています。ちょっと、「デビッド・カッパーフィールド」のような雰囲気で。

しかも‘ウィザード’を名乗り、それに相応しい?キマッタ(自分でそう思ってる)いでたちで、耳にはいくつものピアスをつけて。

エヴァンの才能に目をつけ、これは稼げると、廃墟のアジトに連れ込む、この映画の中で、唯一、風変わりな設定、風景です。なくもがなとも思いますが、ウィリアムズは、そんな役を心から楽しんでいるように思えます。

以前、「アクターズ・スタジオ」(NHK衛星)に出演した時、最初から最後まで、ジョークとギャグの連発で、司会者まで巻き込んで、踊りながら、ステージの下まで降りてしまったりした、つまり、彼の本音、本質は分からずじまいという印象を持ちましたが、‘ウィザード’という命名も、それに相応しい(と思っている)扮装も、彼の発案かも知れません。

エヴァンにオーガストという芸名をつけるのですが、稀な音楽の天才が身につけている風格というか、侵し難い雰囲気を(演技か、ハイモアの身についた品格を活かしたのか)ちょっとしたオチャラケを配することによって、一本筋になることを避けたのか・・・

ただ、エヴァンほどの天才なら、自ずと知れてしまうはずで、如何に環境の悪い孤児院でも、誰にも片鱗も気づかれないというのは、少々無理があるようにも思いますが。

音楽の天才少年少女を主人公にした映画と言うと、旧くは「オーケストラの少女」があります。
制作は1937年ですが、私は、戦後、中学の時、関西に転校して、父に初めて連れて行ってもらった映画がこれでした。制作から十数年経っていたことになります。

ディアナ・ダービンという非常に人気のあった、子役が主人公で、超有名な指揮者、レオポルド・ストコフスキーが、実際に共演していました。
父は、ストコフスキーをヨーロッパで生で見た時の印象と感激を語ってくれたのですが、この年になって思うと、私より父の方が、今とは比べものにならない、困難な時代を生きたのに、はるかに多くの地へ行き、はるかに多くの経験をしたということになると断ぜざるを得ません。

おっと、脱線しました。
もう一本、本物の天才少年が出演した映画がありました。最後にオーケストラの指揮をするのですが、カールのかかった髪と、ハイモア君より若干肥り気味の体と、可愛い顔つき、そして、彼は結局は、指揮者として大成しなかったという、後に知った事実しか覚えていません。

いずれにしても、現役の演奏家の殆どは、天才少年・少女だったはずですから、並みの?天才では、映画のネタになり難いわけですね。

本は読んだら書く、映画も観たら書く、をモットー?にしているのですが、割に最近観た映画で、まだ書いていない、書く気のない映画があります。
これぞ、本物の音楽映画と思って、観に行ったのですが、肝心なところで、大きな肩透かしを食らいました。

この映画を観て、落胆した方は多いはずです。映画としての出来はよかったにも拘らず。
原因はタイトルにあります。
「ラフマニノフ ある愛の調べ」という映画です。
ラフマニノフと言えば、あのピアノ協奏曲です。このタイトルを見れば、誰でも、あの協奏曲が、ふんだんに聴けると思うでしょう。

確かにバックミュージックとしても、使われている場面があったし、演奏場面もあったかなあ・・・
とにかく映画は、言わばラフマニノフの伝記と言った趣きのものです。
すぐれたピアニストだった、ラフマニノフのピアノ演奏場面はふんだんにありましたし、玄人筋は(でなくても、私のようなミーハーでない、音楽好きの方は)、充分堪能されたかも知れません。
しかし、私は、見終わって、これはない、と失望しました。

ロシア語はアルファベットも分からないけど、原題は全く違うはず、とパンフレットを買って、隅から隅まで、調べました。タイトルは、普通分かりやすいところにあるはずが、見当たりません。

劇中、ある花が何回も出て来ます。ある種のキーワードとして。それがタイトルではと思ったのですが、当たりでした。ここに書くのは控えますが、英語の原題でした。
確かにそのままでは、インパクトもないし、内容の推測もできない。でも精々、「ラフマニノフ その生涯」とか、ここまで、ミーハーをがっかりさせ、ブログを書く気もなくさせるような、思わせぶりな題名をつけるのは、控えて欲しいものです。

ただ、ラフマニノフでも、この「奇跡のシンフォニー」でも思ったのですが、映画館で、音質がいい、時として大音響で、音楽を聴くということは、コンサートとは別の、音楽の聴き方だと思われます。
季節的な持病で、咳が出るので、コンサートはなかなか行く気にならないのですが、映画館なら、少々咳をしても許されるでしょうし。

「奇跡のシンフォニー」、差し出がましいことを申し上げますが、夏休み、是非お子さんに見せてあげてください。  《清水町ハナ》

この記事へのコメント

2014年08月29日 13:13
はじめまして。

この度のロビン・ウィリアムズさんの訃報
本当に残念でなりません。
拙ブログで哀悼の記事を載せました。

同氏の出演された作品のご感想として
貴記事をTBさせて戴きました。
相互で反映しあえれば幸いです。
よろしくお願いいたします。
2014年08月29日 16:36
小枝さま、コメント・TBありがとうございます。素敵なブログも拝見しました。私は思いついたことを気の向いた時に書くだけなので、拝読の側だけということにさせていただきます。

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