思い出エッセイ〔421〕映画雑記帳180「【007/スカイフォール】感想」

 【007/スカイフォール】(ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム、ジュディ・デンチ、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス、ベレニス・マーロウ、アルバート・フィニー、監督:サム・メンデス)。

007シリーズ生誕50周年記念作品ということです。
ダニエル・クレイグが6代目ジェームズ・ボンドとなって、三作目です。
最初は、地味な印象からか、ボンドに相応しくないなどと、アンチ・サイトまでできたようですが、アクション能力に優れ、演技もうまい人で、ボンド以外の出演映画も多く(最近のものでは、【ドラゴン・タトゥーの女】が印象的でしたが)、私は贔屓の人です。

この映画の冒頭、文字通り息も継がせぬ、凄まじいアクション・シーンの連続です。20分位続いたように感じました。
イスタンブールで撮影されたそうで、バザールでの派手なカー・アクション、実際の場面としたら、現場に居合わせた人々も巻き込まれたに違いなく、別の場所でロケしたものを組み合わせたという記述もありましたが、いずれにしても、いささか、周囲の人に迷惑をかけ過ぎる設定のように思います。
テレビの広告に出る、細い道のような所をオートバイで追いかけるシーンは、山の尾根のように見えましたが、実は同じような住宅が続く高い屋根の上。実際に走っているんでしょうけど、ただ歩くだけでもできそうにない感じがします。

列車の屋根での追いつ追われつ、トンネルが迫る、というクラシックな場面もスピードがあり、鉄橋にさしかかる、もつれ合う二人、遙か下の河に落ちて行く・・・
この一連のアクション・シーンの後に、配役、スタッフなどの名前がズラズラと出て、ほんとにひと区切りついたような感じになります。ある意味、それも事実とも言えるのですが。


イギリスの諜報機関、M1-6の諜報部員、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)は、同僚のイヴ(ナオミ・ハリス)と共に、NATOの潜入調査員の名簿と顔写真などが入ったハードディスクを本部から奪ったパトリス(オラ・ラパス)を追う。

鉄橋の上で絡み合って格闘する二人を、撃つことはできないと言うイヴに、上司M(ジュディ・デンチ)は、ボンドに当たってもいいと撃つことを命じる。
ボンドが撃たれ、遙か下の河に転落、更に滝壺の中に呑み込まれる。
ジェームズ・ボンドは殉職した。

国防委員会の委員長、ギャレス(レイフ・ファインズ)は、Mの失態を責め、辞職すべきだと言う。
折しもMのパソコンがハッキングされ、M1-6本部が爆破される。
チャーチル首相が第二次大戦中に使った防空壕に本部は移される。

ボンドは生き延びていた。辺境の地で、諜報部員だったとも思えない、だれた日々を過ごしていた。
本部爆破を知って、ロンドンに戻り、再び仕事をしたいとMに申し出る。
部員として活躍するには、再テストを受けなければならない。必死にトレーニングを積むが、結果は不合格。しかしMは合格と偽って、ディスクの奪還を命じる。既に犠牲者が出ていた。

ボンドはパトリスを追って、上海に行く。
エレベーター・アクション?の末、パトリスは死ぬが、彼の遺留品などから、マカオの賭博場で、巨額の賭博の勝ち金を手に入れる。
ボンドに近づいて来た、美女、セヴリン(ベレニス・マーロウ)と交換条件を交わして、パトリスの雇い主に近づく機会を得た。

ディスクを奪ったシルヴァ(ハヴィエル・バルダム)は、元M1-6の諜報部員で、Mを恨み、復讐しようとしていたのだ。ボンドに捕えられたのも彼の策だった。

そしてここからお話はまだまだ続きます。これまでの007シリーズでは全く見られなかったシーンの連続です。


ひと言で言って、よくできた作品で、楽しめました。007シリーズとしてだけでなく、サスペンス、アクション、スパイものとしても。
おそらく、単に50周年記念だから、ということだけでなく、そして懐古趣味・傾向というだけでもなく、この映画には興味深い設定やシーンが登場します。

最初の長いアクション・シーン、おそらく過去のシリーズでは、登場したことがなかったでしょう(全部見ているわけではありませんが)、奇抜な万能武器に助けられて、という場面が多かったと思いますが、主役のクレイグ始め、身体能力の限りを尽くして、アクション・シーンとしても上出来の、ショート・ストーリーの趣きで、ご丁寧にエンド・スクロールまでつけて、ジェームズ・ボンドは一回死にます。「007は三度死ぬ」というところでしょうか。

M1-6の本部は爆破され、移動先は、第二次大戦中、チャーチル首相が使った防空壕です。
「鉄のカーテン」という言葉は、よく知られている通り、第二次大戦終結直後の1946年、チャーチルが演説の中で使った言葉で、当時のソ連、東欧、中部ヨーロッパなど、所謂共産圏と所謂自由主義国家との間に鉄のカーテンが下ろされたと述べ、以後この二つの世界は、隔絶し、対立する二極とされました。スパイ小説が跋扈するには、最適の状況です。

1990年のベルリンの壁崩壊、続く1991年のソ連邦崩壊により、世界は大きく変わり、スパイ小説はどうなってしまうのだろう、と言う風潮も出現しました。
ソ連がロシアとなっても、世界にテロのタネは尽きず、ドッコイ生きてるという感じだったかなと思うのですが、007もソ連を敵にしていればいい時代は終わったわけです。

今回、生き返ったボンドが、新たな使命に際して、渡される武器は、007にしか使えない拳銃と居所を知らせる小さな器械だけという地味さです。

以前、映画に登場する上海と言えば、1930年代の、魔都上海でしたが、今やアジアだけでなく世界に冠たる近代都市上海が、007の華やかな活躍の場となり、この映画で、日本との関わりと言えば、実際の?スタッフ他のエンド・スクロールの中に見つけたのですが、長崎の軍艦島(端島)がロケ地として使われていたようで、島に上陸したのかどうか、少なくとも、遠目にあれではと分かる島が登場します。
軍艦島は、言わば廃墟が観光地となっている所です。スパイや諜報部員が活躍するには、適さない国、都市、日本は、それだけ平和ということにもなるのでしょうが、活気のなさ、衰退の兆候のためということになると、少々問題のようにも思えます。

昔のボンドは、殺しのライセンスを持っているなどと言われ、一般庶民の存在などは眼中にない風でしたが、本作では、安全国防委員会のマロリー、他は、国民の意向も気にします。ジェームズ・ボンドと言えども、今までのような好き放題は許されないと言った構えのようです。寧ろ見た目は地味なボンドの方が好ましいかも知れません。

そして、この作品にネタバレは殆どないとも言えると思うのですが、大事に取って置いた方がいいようにも思える、最後の、文字通りのジェームズ・ボンド生誕の地で、現代装備の敵との間に繰り広げられる戦い。ボンドは何をもって、どういう戦い方をするか・・・
単に50周年を記念して、企画されたことか、それとも懐古趣味もいいもの、と言うコンセプトか、もしかして今後の007の方向を暗示しているのか。
と言って、哀愁を漂わせながらも、旧きものは去るという主張も顕著なのですが。

意表を突いた地下鉄アクション?何故か、日本で起きたばかりのトンネル事故を連想してしまい、気分が悪くなりましたが、やはり明らかに一般市民も犠牲になる設定は避けて欲しいと思いました。

そして、最後の最大の敵が、M1-6の元諜報員であり、Mへの復讐が動機であるということも、ある種旧体制への訣別を表しているようにも感じたのですが、こればかりは、今後の作品を見なければ分かりません。

この敵、シルヴァが、Mと再会して、「こんなに小柄だったんだ」というセリフを、わざわざ口にしますが、ほんとに小柄です。他の諜報員の半分位に見える。
しかし、M1-6の長として組織を動かしている時は、大きな存在だった。

ジュディ・デンチと言うと、私はいつも【あるスキャンダルの覚え書き】の鬼気迫る名演を思い出します。
性格が悪いと言うより、性悪と言った方が合いそうな、生来の底知れない意地悪さを持っている、友達さえ陥れる、魅力があるとは言えない容姿へのコンプレックスもある、友人の家族が、彼女の悪意を知って、浴びせる罵詈雑言が凄かった、他人のどんな言葉や態度にもめげるどころか、倍にして返すという感じ。
しかし、男性と付き合ったことがない、という独白に、観客は、はっとさせられます。

何故、007とおよそ関係のない、こんなことを書くかと言うと、私はジュディが初めてMとして登場した007を見ていず(覚えていないだけかも知れませんが)、前作で初めて知って、本当に驚きました。同じ女優だろうかとも思いました。

調べてみると、彼女は、007の合間に、【あるスキャンダルの覚え書】に出演しています。
ボンドがダニエル・クレイグとなってからは、70歳を過ぎています。
Mとしてのオーラに輝いている一方、ボンドからも、復讐の鬼と化した元部下からも、お母さんと呼ばれる。
どんな役どころもこなす、素晴らしい女優です。(高齢者の星などと言ってしまったら、ミもフタもないのでしょうけど)

最後にジュディ・デンチに拘ってしまいましたが、007シリーズとしても、エンターテインメント作品としても、パーフェクトに近いと言っていい、見応えのある作品です。お子さん連れでも差し支えないと思います、お出かけになってみては如何でしょうか。  《清水町ハナ》

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