映画雑記帳84「【母なる証明】感想」思い出エッセイ〔238〕

 【母なる証明】(ウォンビン、キム・ヘジャ、監督:ポン・ジュノ)。韓国映画。日本の昔懐かしい母もの映画の趣きがあるのかと思って観ましたが・・・高名な監督の過去の作品を観ていたら、そんなことは思わなかったでしょう。

英語のタイトルが“Bad Son”となっていて、アレとは思ったのですが。
最初のシーン。
広い枯野原で中年の女性が踊っている。どこと言って目立つところのない、ギスギスと言っていいほど痩せて、ありふれた服装で稚拙な踊りを結構延々と続ける。

観客は奇妙に思ったり、呆気にとられたり。おそらく。
私はかなり前のフランス映画、【髪結いの亭主】で、主人公のサエナイ中年男がモタモタとダンスとも言えない動きで踊るシーンを思い出しました。
彼は、年下の美しい妻に、浮気をされ、何故か彼女は濁流に飛び込んで自殺してしまうのです。

次に母親は、納屋のような仕事場で、漢方薬の材料にするらしい、枯れたマメ科の植物の束を裁断機で切っている。そのザクリ、ザクリという音も異様に神経に触る音である。
彼女は漢方薬店に勤める傍ら、鍼もやっている。

道路の向こう側で、彼女の一人息子トジュン(ウォンビン)が声をかけたり、犬とふざけたりして、母親の気を引こうとする。
トジュンは多少の知的障害があるように見える。
友達のジンテ(チン・グ)と一緒である。

通りかかった車にトジュンは巻き込まれ、ひき逃げされる。
怪我は軽く、そのベンツがゴルフ場に行くと見て、ジンテと追いかけ、ゴルフ場で、車を毀したりして仕返しをする。

二人は警察に呼ばれ、取調べを受けるが、どちらが車の弁償をするかで喧嘩になる。
約束をすっぽかされ、夜道を歩いて帰るトジュンは、一人の女子学生に会い、声をかけるが、大きな石を投げつけられる。

翌朝、その女子学生、ムン・アジョンは、ビルの屋上で殺されているのが発見される。
トジュンに容疑がかかり、逮捕される。

トジュンを溺愛する母親は、有名な弁護士を雇ったり、必死に息子の無実を証明しようとする。
挙句に親友のジンテの家に忍び込み、血のついたゴルフ・クラブを見つけ出し、警察に提出するような行為までするが、それは口紅ということが分かり、信用を失ってしまう。

それでもありとあらゆる努力をして、何とかして息子を救い出そうとする。
遂には殺されたムン・アジョンが当夜出入りしていた空き家に行き、同じくそこを根城にしている男から意外な事実を聞く。


映画で眠くなることは少ないのですが、この映画の前半、母親が息子を救うために何でもやり、どこへでも行くシーンが続いた時、少々の眠気に襲われました。
息子の無罪を勝ち取るため、どんなことでもする母親というパターン、母ものと信じ込んでしまっているので、ルーティンを感じ、このままどんな展開になっても大したことない、みたいな気持ちが膨らんで来て、それが眠気を誘発したのだと思います。
事実寝不足でもあったのですが、一度ガクンとしたような・・・

ところが、上記のプロットの終わりの辺りから、映画は、全く思いも寄らない展開に入ります。その鮮やかさは、勿論眠気も吹っ飛ばし、こういう映画だったのかと茫然とさせられます。
韓国の激しさは日本とは異質であるとも感じました。

ウォンビンと言えば、言うまでもなくペ・ヨンジュン以前に日本でTVドラマなどに出演し、四天王として名を知られた俳優です。
兵役に就いたものの、足を痛めたのだったか、途中除隊して、それきり映画出演の話を聞いていませんでした。

この映画でも、カッコいい役どころとは言えず、しかし若干の知的障害があるようだけど、そして母親に頼りきっているようだけど、不意に母親の意表を衝くことを言ったり、行動をしたりする。プライドも高い。

弱々しい縋るような目、それでいて時折冷たく光る。顔の色も白過ぎる。役どころとは言え、兵役で味わった負の体験、そして挫折が、ウォンビンその人を大きく変えているのかも知れない。しかし彼の実像も含めて、トジュンの性格、人間設定は、帰って来たウォンビンにピッタリで、優しい印象なのに、時折思いがけない感情の変化を表す演技を、微妙な表情の変化も交えて演じ切っています。

世はまだまだ韓流スター流行り。まるで韓国には美男美女しかいないような錯覚を持たされますが、この映画は、俳優さんには失礼ですが、イケメンだの美人だの殆ど出て来ないし、高校生役のワルぶりも相当で、実はこれが現実なのかなと思わせられます。

これ以上は書けないわけですが、トジュンがさり気なくあるものを出す場面、意図的なのか天然なのか分からない、こういう場面のためにこそ、監督は最初からトジュンの、ちょっと曖昧な優しさ、しかし中に非人間的な要素も秘めているのではないかとも思わせられる、役柄を作り出し、観客は、どっちなのだろうとずっと答えを得られないままになるわけです。

見応えのある映画でした。  《清水町ハナ》


・2センテンス加えました-10/01/14-

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