本の雑記帳18「『新参者』感じたことなど」思い出エッセイ〔233〕

 東野圭吾『新参者』講談社刊。新聞の広告を見て、衝動買い。一気に読んでしまいましたが。

日本橋・人形町辺りが主な舞台のようです。甘酒横丁などという実在の通りも出て来て、大体ああいう感じの所を思い浮かべたらいいということだと思いますが、「小伝馬町で何かあったみたいだな」・・・「事件かな」などというやり取りに何となく実感が持てない。

23区外に住んでいる者の鈍感さかも知れませんが、ちょっと違うように思う。
日本橋、日本橋署などと、日本橋という地名が頻繁に出て来るのですが、普通日本橋と聞くと、文字通りの「橋」を中心とした、あの通り、特にデパートのある辺りを思い浮かべ、それに対して、人形町とか、小伝馬町、茅場町などと、例えば地下鉄の駅などを中心としての地名、場所を思い浮かべるからではないでしょうか。

結構厚い本なのに、ほんとにスラスラと読んでしまって、それでいて紹介、或いは感想となると、どう書き始めたらいいのか、戸惑いました。
普通、本の帯に、内容についての短い紹介があるものですが、「日本橋の一角でひとり暮らしの女性が絞殺された」という一文以外、内容に繋がる文言はありません。

この本の広告に、多くの伏線が最後に見事に集約されている、みたいな文があったように思い、新聞を捜すも、もう処分してしまったらしい。
これが伏線らしいとは、後で気づくけど、集約という感じは持てませんでした。

各章が別物のような独立した感じがあり、途中で、月刊誌に別に発表されたものらしいと知りました。
それを手直しして、長編にしたということか・・・

ストーリー・テリング力?は相当なもので、それぞれの人物の性格づけ、浮き上がらせ方もなかなかのものです。
しかし、肝心の被害者の人物像は、曖昧というか、確実性がないと言うか。
饒舌を楽しめても、ミステリーとしては、?でした。
この本のプロットも、帯に書いてある一行にもう二三行足せば書ける。意外性は殆どないに等しいと思います。

ミステリーとして紹介すると、当然ネタバレに繋がることは書けない。
そこで、私はそれを放棄して、あえて、人物設定他で、気になったことを少し書いて、この本の感想ということではなく、ちょっと感じたことを書くに留めたいと思います。

最初に日本橋について書きましたが、これも実は結構気にしている部分です。
裏表紙の帯には、「~日本橋。江戸の匂いも残るこの町の一角で発見されたひとり暮らしの~」とあります。

小理屈と言われそうですが、本来の日本橋には、300人半ばの人しか住んでいません。
人形町は4300人余と日本橋では二番目に多い方ですが、小伝馬町は600人弱(平成21年12月1日現在)。
店と住宅と住み分けている場合が多いのでしょう。

下町の人情話に相応しいのは、もうちょっと場所を移して、佃とか月島とかなどと思ってしまうのですが。

それはともかく、私がひっかかってしまったのは、主要人物像、或いはそれに関係する設定に関してです。

誰ということは書きませんが、離婚の理由が、夫が仕事が忙し過ぎるとか、ありふれた事情に加えて、よくある(と言って、今現在の厳しい経済事情では実現不可能に近いと思いますが)、このまま自分を生かし切ることなく人生を終わるのかという思いから、夫だけでなく、子供まで棄てて、家を飛び出す。

当然、相当自信のある、所謂手に職を持っていなければならない。
ところが、英語を専攻して、翻訳家になりたいという夢だけ持っていて、友人の翻訳家の手伝いをして生計を立てようとする。下訳などということでしょうか。
これでは充分どころか、最低限の生活費も得られないと思います。

友人だって、慈善事業をしているわけではないから、精々気持ち何とかプラスしても、それ以上の面倒は見られないと思うのですが、まずは、友人の下で働くということは、自身が翻訳家として通用するには、道は遠いということになります。

自分勝手な理由でも、夫からそれなりの財産分与をしてもらっていて、それを崩しながら生活ということのようですが、日本橋と名のつく所でのマンション暮らしはかなりきついでしょう。本来の日本橋にマンションがあるかなあ。

子供を棄てて来てしまったのに、大学を中退して、芝居などやって、収入が限りなく少ない息子のガールフレンドが妊娠しているらしいと知って、この女性は、この二人を何とか助けてやらなければならないと考える。

そして考えたことが、離婚の際の財産分与の上乗せという、今更そんなということ。その理由になることがないか、調べる。

あまり詳しく書くことは避けたいと思いますが、この女性は大きな勘違いを二つする。
一つは、元夫からもう少しお金を引き出せそうな理由、と言うか、事情と言うか、こっちの方は、まだ何とか目をつぶっても、息子の相手を勘違いすると言うのは、作品構成上いくら何でも、ということに私には思えるのですが。

更にそういう女性の行為と言うか、考え方に、刑事達も当然のこと、母親らしい心遣いと思っているらしい。
私の方がおかしいのかも知れません。少なくとも、そういうことを決定的な理由とすることに。まあ、人それぞれだから、仕方ありません。

加賀刑事という、お馴染みらしい、ある意味この本の主役である刑事も、練馬区から日本橋署に来ると、新人扱いというのもどうでしょうか。結構な年らしいし、その前は警視庁にいたらしいし。

『週刊文春』のミステリー・ベストテンの一位のようです。
これからゆっくり賞賛の言葉に目を通すつもりです。私はちょっとしたことが性に合わなかったということですから。

最初、別の作品について書くつもりでした。文庫本が、字の大きいA社のものでなく、B社のだったので、見送った。後悔しています。  《清水町ハナ》

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