本の雑記帳15「湊かなえ『贖罪』感想など」思い出エッセイ〔195〕

 問題作(と言っていいと思いますが)『告白』に続く、湊かなえの第二作です。読後感想メインではなく、この本を読んで感じたこと、連想したこと、他の、言わば、雑感です。

湊かなえ作『贖罪』(東京創元社刊)。
前作『告白』は、衝撃的と言っていい作品で、好き嫌いが分かれると思いますし、後味がいいとは言えない内容でしたが、この作者の第二作と聞けば、手にとってみたいと多くの方が思われるのではないでしょうか。

最初に短く内容を紹介しておきます。

―きれいな空気だけがとり得の田舎町で、都会から来た美少女エミリーが何者かに殺害される。居合わせた少女四人とエミリーの母親のその後が独白形式で語られる―

 本のカバーは黒地に苺がいっぱい。爽やかさは全くなく、毒々しく猥雑な感じさえする。
内容をある程度示唆しています。

この本について、私は初歩的な勘違いをしました。
その一つは、「本屋大賞受賞」という大きな字だけを目に入れて、それに続く「第一作」という字が目に入らなかったことです。
「本屋大賞」を取ったのは、『告白』で、当然ながら、この『贖罪』はその後に書かれた第一作ということです。

それから、カバーの短い紹介にも書かれている、六時になると、流れる音楽が、“Greenfields”だと、第二の勘違いをしてしまいました。
あのブラザーズ・フォーの「グリーン・フィールズ」です。

割りに最近、NHKの衛星放送で、彼らの姿と歌と演奏を何十年ぶりにみました。
その懐かしさは、涙が滲み出るほどでした。
昔の面影を残しているのは、ベースのちょっとヒョウキンな感じのする人でした(実は彼だけが昔のメンバーだという情報がnetにありましたが)。

この「グリーンフィールズ」だけは英語で歌えると書いている人がいて、笑ってしまいました。私ももう少し若い頃、全部ではありませんが、殆ど英語で歌えるのがこの曲だったからです。

カバーにも、小説の中にも、モチーフのように、何回か「グリーンフィールズ」が流れて来たとあるので、私はてっきりこの歌詞の中にヒントありと睨んで、全歌詞が出ていないか、検索を始めました。

すぐ出るかと思ったら、ダメでした。著作権の問題があるのでしょう。私も覚えている二行位しかgetできませんでした。
“Once there were Greenfields,kissed by the sun. Once there were valleys where rivers used to run.”・・・

これだけでも、過去形ということから、かつてはそうだったけど、今はそうでないという意味になる、と痩せ我慢。
その内に、大意を見つけ、恋人と二人で再訪したら、(グリーンフィールズ)は荒れ果てていた・・・そんな風に繋がって行くらしいと分かりました。

象徴的な意味合いに使っていて、特に謎解きなどには関係ないらしい、そう思って、もう一度カバーを見たら、何と、「グリーンフィールズ」ではなく、「グリーンスリーブス」と書いてあるではありませんか。えーっ・・・

同じブラザーズ・フォーの持ち歌で、メロディも似ていますが、歌詞は大違い。
中世の英国の民謡とかで、Wikipediaにもバッチリ歌詞もメロディも載っています。
ミステリーのヒントとは、関係なさそう。

散々検索したから、負け惜しみに言うわけではないのですが、これ、まさか著者の思い違いではないでしょうね。
空気がきれいなだけがとり得の田舎町に大事件が起きて、人も町も変わってしまうという物語ですから、スリーブスよりフィールズの方が適しているように思えるけど。

とにもかくにも、最初から躓いて読み始めているので、素直な気持ちで読んでいない所為か、ストーリーテリングの腕は相当で、つい読み進めてしまうけど、『告白』とは出来が違う、しかも、関係者数人の独白という、同じスタイルをとっているから、二番煎じの観がある。

美少女とその母親が、都会から来たからと言って、昔の絵本に描かれているようなステレオタイプと言うのもあまり頂けない。という表現も古臭いわけですが。

フランス人形なんていやだ、バービーでなきゃいやだとか、牛すね肉、カマンベール・チーズ、生クリームを売っていない、だから田舎だ、というのも、浮いている。
酪農が盛んかも知れないと言いたくなってしまう。
大体、都会育ちだからと言って、センスがいいわけでもないと思います。

ちょっとしつこく書いていますが、とにかく何一ついい所がない、きれいな空気ということが唯一絶対の立地条件という精密機械の工場が来たから、日本一空気がきれいであることは証明された、それだけが売りである、そのことによって、著者が何を主張したいのか、その条件にどういう必然性があるのか、分かりにくい。

再び、独白というスタイルをとることによって、登場人物数人の絡み合いがないし、ミステリーは、やはり、『告白』も含めて、全編が登場人物それぞれの別々の語りの形式をとってしまっては、極端な言い方になるかも知れませんが、真相は闇の中のままの可能性もあるとも言えるのではないでしょうか。
勿論、AがBの、BがCの、見えない部分、気づかれていない部分を炙り出すのに有効という長所もあるとは思いますが。

つまらないことを今更言うようですが、エミリーの殺害現場に居合わせただけの子供達には何の罪もない。
それを、お前達の所為だ、時効までに何とかしなければ復讐するという、少女の母親の主張という大前提が私には納得いきません。

『告白』は、よく練られたプロット、意外な結末に感心しましたが、一番驚かされたのは、子供達の過激な、大人も及ばない悪者ぶりで、それが、本作では、同じ子供がここまで稚ないというのもどうでしょうか。まさか都会と田舎の違いではないと思いますが。

非常に期待したので、その割にはという程度を強く書いてしまったかも知れません。
Netで見たので、事実かどうか分かりませんが、作者は‘『告白』が代表作と言われないようにしたい’と発言されたとか。それを期待しています。  《清水町ハナ》

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