本の雑記帳13「東野圭吾『聖女の救済』感想」思い出エッセイ〔143〕

 東野圭吾作『聖女の救済』文芸春秋社刊。あの、映画「容疑者Xの献身」の原作者の最新作です。この頃読書欲がトミに衰えている私としてはめずらしく、一気に読んでしまいました。A社のお薦めで、特にミステリーでは、あまり見たことがない、☆五つの評価であることが、読んでみる気になった第一の理由です。

第二に、映画「容疑者Xの献身」を面白く観たことが挙げられます(映画の評価はあまり高くなかったようですが)。
ただ、読み始めて、湯川学が出てくれば、福山雅治、内海、草薙両刑事は、柴崎コウ、北村一輝の顔が刷り込まれてしまって、頭の中でプロット通りに勝手に行動するので、閉口しましたが。
或いは、映画の上映中を狙って、出版されたのかも知れない。

(「オール読物」に連載されていたようですから、この本の内容をご存知の方も多いと思いますが)

謎解きに繋がることをどの程度まで書くか、帯のキャッチ・コピーまでは少なくとも許されるだろうと考えているので、今回もその辺りから、書き始めます。

‘ガリレオが迎えた新たなる敵・・・それは女’“おそらく君たちは負ける。僕も勝てない。これは完全犯罪だ。”これが表の帯。

‘男が自宅で毒殺されたとき、離婚を切り出されていたその妻には鉄壁のアリバイがあった。草薙刑事は美貌の妻に惹かれ、毒物混入方法は不明のまま、湯川が推理した真相は―虚数解。’“理論的には考えられても、現実的にはありえない”裏表紙の帯です。

但し、冒頭で既に犯人が明かされています。それで、どう解く、と著者は挑戦しているのでしょう(この部分が必要だったか、疑問ですが)。

ベランダのパンジーに水をやっている真柴綾音(ましば あやね)に、夫の義孝が後ろから声をかける。
結婚して一年経っても子どもができなかったら、離婚する約束だったことを実行する時が来たと。

綾音は、分かっていると答えながら、ある決心をする。

階下では、ごく親しい友人を招いて、パーティーが始まるところである。
アンティークの家具、バカラやベネチアングラスのシャンパングラスのセットが揃えられているということから、かなり裕福な家であることが分かります。

若山宏美、猪飼夫妻が客である。
(‘白身魚のマリネのソースにここまで凝ったりしない’、と猪飼由美子が綾音の料理を褒めますが、ちょっとピンとこないセリフです。これに対して、夫の猪飼達彦が、‘お前はいつも通販の青じそソース’と受けるのも、ちょっとヘン。青じそソースを通販で買う人がいるのかなあ・・・
それも美味しそうじゃないと言う綾音に、猪飼が、そんな風に褒めないでくれ、ステーキにまで青じそソースをぶっかけるかも知れない、と言うのも、あまりの答えで、普通の主婦感覚ではシラけてしまいます)

(ついでに書けば、主客には、ベネチアングラスをシャンパンに、というのも、普通、ベネチアンというと、ピンきりであっても、ゴテゴテと飾りのついた金ピカの色つきグラスを連想してしまいます。シャンパンには、バカラの方がいいと思いますけどね)

義孝がワインを注ごうとすると、宏美も猪飼由美子も遠慮する。由美子は出産したばかりで、お乳に影響が出ないようにということだ。
(その赤ちゃんは、両親に預けてきたとありますが、粉ミルクを飲ませるのかしら)
他にも不自然な会話がありますが、冒頭ですから、もう少し繊細にと言いたくなります。

パーティーが終わって、綾音は、父親の具合がよくないから、明日から暫くの間、札幌の実家に帰ると言う。
真柴綾音は、パッチワーク(キルトを付けた方がベターでは?)の作家である。その作品には高値がつくし、個展も開く。
若山宏美は、彼女の弟子で、制作を手伝っている。

宏美が、翌日、いつもの通り、代官山にある、綾音の仕事場兼(パッチワーク)教室に行くと、綾音は札幌に向かうところで、(一本しかない)鍵を宏美に預ける。

教室が終わった頃、義孝から携帯がかかって来て、今夜うちに来るように言う。
義孝は、相手が宏美とは言っていないが、綾音に(離婚のことを)話したと告げる。
その日、宏美は、義孝の家に泊まる。

翌日は日曜日だが、宏美には池袋にあるカルチャー・スクールの講師の仕事があった。
その仕事が終わって、七時頃、義孝に電話をするが、出ない。
彼の家まで行くと、リビングルームの灯りがついているが、電話をしても応答がない。

宏美は、綾音から預かった鍵で玄関のドアを開ける。
リビングに入ると、義孝が床に倒れていた。

草薙刑事は、事件が起きた真柴家に向かう。現場には、内海薫刑事が既に来ていた。
この家の主である真柴義孝が死んでいるところを発見され、死因に不審な点がある、自殺か他殺か分からないが、毒物による死亡の可能性があるという。

その夜、義孝は、レストランに二人の予約を入れていたことが分かる。
八時予約の電話を入れたのが六時半で、発見者の宏美が七時過ぎに電話した時には、繋がらなかった。

(コーヒーを飲んでいる時に倒れたようだが、「ソーサーはいつも使わないのか」と刑事が宏美に尋ねる場面があります。ソーサーという言葉は今はそのまま使われているんでしょうか。私は、自分の家でコーヒーなど飲む時、マグカップでしか飲まないし、ソーサーという言葉も使わない、というより、ソーサーって何だっけと一瞬思ってしまいました。
同じく、食器棚は、カップボード(昔、発音はカッバードと習ったけど)。これはどうやら当たり前に使われているようですね)

妻の綾音が札幌から急ぎ帰って来る。
義孝が倒れていた場所を見て、号泣する。
綾音は悲しみながらも、ベランダの花に水をやることを忘れない。
バケツに水を汲み、缶の底に穴を開けたものを如雨露代わりに使っている。

司法解剖の結果、義孝の死因は亜ヒ酸に拠るものであることが判明する。
自殺なら、わざわざコーヒーに毒物を入れたりしないだろうし、当初は、義孝が自分ではコーヒーを入れないという綾音の証言に、他者による毒殺は決定的と見られたりもするが、実は自分が入れ方を教えたこともあると、宏美が証言する。

義孝は、水道の水をじかには飲まず、浄水器をつけているし、コーヒー用に、大きな冷蔵庫にペットボトルの水を何本も用意している。

綾音は、宏美が義孝の愛人であり、妊娠していることも知るが、平静を装い、逆に宏美の
体を気遣う。

いつの間にかという感じで、湯川学が登場し、ケトルの内部に毒物を貼り付けるという仮説を立てたりするが、実験は成功しない。

友人達には、当夜のアリバイがあり、綾音は親しい友人と北海道の温泉に行っていたことが分かる。

コーヒーメーカー、濾紙、浄水器、果ては水道管そのものにまで毒物を仕込む可能性が調べられるが、何れも毒物の痕跡は発見されない。

一方、義孝は、それまでも女性関係が派手だったことが分かり、綾音の前にも、画家と付き合っていたことが判明する。彼女は自殺している。

湯川は、こうであろうという仮説を立てるが、証明が不可能である。
それが実証されるのは、登場人物の性格、いつもの習慣とちょっと違う、小さなことです。

映画は、映像が流れ去ってしまいますから、細かいことまで記憶するのは、私には不可能です。
それに引替え、本は、一気に読んでも、感想を書くとなると、読み直しということができます。読み直すと、本筋と関係ないアラも見えてきてしまうのが、欠点と言うか、残念というか・・・

本書を読まれるとおそらく、これが関係があるのではないかということが一つ、二つ、出て来ると思います。どう関係しているか分からないままに、作者がさり気なく印象づけるつもりが、一回でいいところを二回、三回と触れていて、本筋と関係がないのにと、ピンとくるのです。最後の証明が、何気ない、‘普段と違うこと’から導き出されるように。

それは当たりでもあるのですが、それだけのことで、事実の証明には全く繋がりません。

こんなことまでしなくても、他に、などともチラと思ってしまうのですが、ごく日常的な出来事や会話で、一気に読ませてしまう、作者の筆力に感心しました。

「聖女」とは誰を、何を指すのか。犯人か、その動機か、赤ちゃんを産む決心をした宏美か、それとも女性そのものか・・・《清水町ハナ》

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • 聖女の救済<東野圭吾>-(本:2009年47冊目)-

    Excerpt: 聖女の救済クチコミを見る # 出版社: 文藝春秋 (2008/10/23) # ISBN-10: 4163276106 評価:89点 馬鹿みたいに仕事が忙しいというのに、少しでも睡.. Weblog: デコ親父はいつも減量中 racked: 2009-06-06 10:22
  • 東野圭吾「聖女の救済」

    Excerpt: 東野圭吾著 「聖女の救済」を読む。 このフレーズにシビれた。  わかってると思うけど、間もなくタイムリミットだ。出て行く準備をしておいてほしい [巷の評判]お茶を飲みながら・・・では, 「いやもう.. Weblog: ご本といえばblog racked: 2010-03-14 15:37