時事雑記帳17「NHKスペシャル「沸騰都市イスタンブール」」思い出エッセイ〔125〕

 NHKスペシャル“沸騰都市シリーズ”第4回、イスタンブール。副題は、「イスラムファッション世界を狙う」「不法住宅撤去」と、内容を直接簡潔に表すものとは言えませんが、今回は‘エネルギーが沸々と煮えたぎる沸騰都市’の惹句が似合う内容でした。ボスポラス海峡を隔てて、文字通りアジア、またはイスラム教国とヨーロッパが接する、或いは対峙する位置にある、トルコ随一の都市、イスタンブールの話題です。

‘イスタンブール’、個人的に、今までの沸騰都市の中で、最も惹かれる、行ってみたい所です。
蠱惑的という言葉を使いたくなりますが、魅惑の強い言葉であるこの表現を使うには、ヴェールがかなりはがされているということになるようです。

最近、トルコの最高裁が、大学での女性のスカーフ着用を、政教分離が骨子の憲法違反という判決を出したことで、非イスラム教国に、そこまで徹底しているのかと、意外感を持たせるニュースがありましたが、この番組をみると、イスラム教国でありながら、イスラム色を抑えている、政教分離が徹底している勢力と、旧来のイスラム勢力のせめぎ合いが具体的に理解できます。
ご存知の通り、新しく誕生した政権は、旧イスラム勢力です。

ボスポラス海峡は、文字通り、アジアとヨーロッパを結び、原油輸送の大動脈である。
現在、この海峡に、海底に管を通して、二つの大陸を繋ぐ難工事が行われている。

アジア側から300メートル沖合いに、海底に向かって降りる深い穴がある。500メートル降りた所が、海底トンネル工事の現場である。

海底トンネルは、現在半分まで伸びていて、ヨーロッパ大陸まで、あと1,000メートル足らずである。
巨大な管を11本、隙間なく沈めて、トンネルとする特殊な工法である。
日本の大成建設が工事を請負っている。
「技術者冥利に尽きる」とは、日本の関係者の言葉。

トルコは、中国、インドに次ぐ急速な経済成長を遂げている。
1500年に渡って、支配者が変わる度に、トルコとイスタンブールは、ヨーロッパとイスラムの文明の影響を受け、また、ある時は激突して来たが、トルコ近代化の父と言われるケマル・パシャは、徹底的なイスラム色の排除、政教分離を、国の続く限り、永久不変の国是とした。

しかし、最近誕生した、エル・ドアンを首相とする政権は、イスラム色が強く、憲法を改正して、国の在りようを大きく変えようとした。

大学でのスカーフ着用を認め、国を二分する騒動となった。
一旦、スカーフを認めると、なし崩し的にイスラム化が進む、とする主張がある一方、旧イスラム派も勢力を増し、大学だけでなく、中学、高校もスカーフ着用を認めるべきと主張。

「ムシアド」と呼ばれる、1万の会社が参加している、イスラム系経済団体は、コーランの唱和で総会を始める。
ムシアド系の、K服飾メーカーは、イスラムの教えを厳格に守りながら楽しめるファッションを売り出し、毎年、10パーセントずつ売り上げを伸ばしている。

イランからもバイヤーが訪れ、原油高で潤うイスラム諸国への進出を狙っている。
彼らは商談の途中でも、お祈りをする。
スンニ派のトルコ、シーア派のイランでは、祈りの時間と儀式は、微妙にずれるが、協力し合う。

一方、トルコの経団連とも言うべき「ツシアド」は、政教分離策を強く推し進め、トルコはヨーロッパ圏と考える。
現に貿易相手の半分がヨーロッパ諸国で、EU加盟を長年申請しているが、未だに認められていない。

この「ツシアド」の会長は、メディア・グループの総帥で、女性である。
ボスポラス海峡を望む地に豪邸を構え、個人専用ボートで出勤する。

しかし、イスラム色を薄め、EU加盟を悲願として来た、政教分離派は、国民の支持率が下がる一方である。

イスタンブールには、貧困層が国有地に多数のバラック様住宅を勝手に建てた「ゲジコンドゥ」と呼ばれる不法住宅地帯がある。

イスラム派が政権をとっても、官僚や役所は、相変わらずヨーロッパ色が強く、この不法住宅の撤去に乗り出す。
公団住宅を急ピッチで建て、住民を移住させ、ヨーロッパ並みの生活を目指すという。

しかし、廃墟に人が残り、廃材をかき集め、住まいを建てる。間借り人に住宅は与えられないし、と言って、故郷には家はない。
撤去しようとする役所に抗議をする。コーランまで埋められてしまったと訴える。

区長は、100パーセントの人を幸せにすることはできない、ヨーロッパに相応しい地にする、と主張する。
好調の経済に、減速の気配が見える。

EU委員長は、トルコのEU加盟には、トルコの安定化が必要と、跋扈する闇経済、他の要因を挙げる。

イスラム女性向けのファッション・ショーには、熱心なイスラム教徒3,000人が集まり、イスラム色を大胆に取り入れたデザインが好評。
スタッフにヨーロッパ人を入れる。異教徒を入れるのは初めてである。
「胸が大きく開いた服やミニスカートも作る」とは、ドイツ人のスタッフの言である。

中東のイスラム諸国からは、トルコのEU加盟を望む声が挙がっている。彼らにとって、トルコがヨーロッパとの架け橋になってくれることが有利と考えるからである。

経済の大動脈となる、ボスポラス海峡トンネルに、6本目の管が入った。
潮の流れが速いので、位置が微妙にずれる。

10メートル、沈めたところで、トラブル発生。ケーブルが絡まり、切れそうになる。
危険な調整もして、夜10時、135メートルの管が海峡に届く。
午前零時過ぎ、責任者(大成建設のKさん)が最後のチェックをする。
二つの大陸は確実に結ばれようとしている。
(上のシーンで、最後、成功するまで、日本語が飛び交い、ハラハラしながら、日本人として、誇らしさを感じてしまいました)

イスタンブール生まれの新しい音楽も世界進出を目指している。
イスラムとヨーロッパが不思議に交じり合って融合した音楽で、ヒットチャートの上位を総なめ。双方の若者が、音楽に酔いしれて、踊っている。

イスタンブール・ファッションも大成功を収めた。
社長は、「政教分離派が、この成功に触れようとしないのは、我々を認めたことだ」と言う。

不法住宅地帯は、今でも貧しい人々が押し寄せ、役所とイタチゴッコをしている。

最高裁の大学でのスカーフ着用は憲法違反であるという判決は(既述)、トルコ社会を大きく揺さぶる出来事で、イスラム派の激しいデモが起きた。

ボスポラス海峡には、新たな管が沈められ、二つの大陸が繋がるまで、あと500メートル足らずとなった。

番組として、まとまりがよく、テンポも速く、話題の展開もみる者の興味を惹く構成だったと思うのですが、こうして、メモを元に書いてみると(間違いがあったら、お許しください)、例えば、政教分離派、イスラム派と簡単に分けていますが、実は、国を二分する問題を抱えているのだと気づかされます。

前者の、EU加盟悲願も、長年EU側が認めないことも、深層にどういう問題があるのか、表面的な取材からは、分かりません。
感情的な言い方をすれば、アジアの人間として、どうしてそこまで、ヨーロッパの一員と認められたいのかとも言いたくなります。

トルコは、第一次大戦時、ドイツの同盟国だったからか、労働力不足の時、ドイツがトルコ人を多く受け容れ、不況になると、迫害し、追い出そうとした、という事情もありました。

かなり昔の映画で、「ミッドナイト・エクスプレス」というのがありました。
映画としては、秀作と言っていいものでしたが、この映画の、トルコとトルコ人に対する差別的な捉え方は、許せないものがありました。

相変わらず、イスタンブールという都市そのものについての、情報や説明が不足です。
私にとって、今回の番組で、最も‘沸騰’に相応しい話題は、ボスポラス海峡の、二つの大陸を繋げる工事です。日本の会社が請負っているということも併せて。
この工事の完成とその後に、トルコとイスタンブールのその後の方向付けの答えがあるように思えます。  《清水町ハナ》

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