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zoom RSS 思い出エッセイ〔473〕映画雑記帳234「【小さいおうち】感想と思い出したことなど」

<<   作成日時 : 2014/01/29 09:06   >>

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 【小さいおうち】(松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、監督:山田洋次)。

よかった、本当に久しぶりに映画に浸り込めた、満足しました。
「赤い三角屋根の小さいおうち」で語られるストーリーが際立って印象に残りました。
そう言っては申し訳ないけど、他の部分は、説明的と言うか、コアを支える、引き立てていると言う感じを持ちました。

私自身が、登場人物の男の子(市川福太郎)より、何歳か下の同じような世代で、昔の思い出が湧き上がって来た、忘れていたことも思い出した・・・つまり個人的な思い出をかき立てられ、見終わった後もあれこれ当時について思いめぐらした、ということで、かなり偏った感想を持ったとも言えるので、当時の記憶も交えて、思い出すままの流し書きといたします。

最初の方のナレーションで、当時(昭和一桁の終わりから、10年代)サラリーマンの家には住み込みの女中がいることが多かった、普通のことだった、という意味のことが語られましたが、勤め人なら、今で言うエリート・ビジネスマンと言うような層の人だったと思います。

昭和一桁から10年代には、大会社の部長、重役クラスのボーナスが3000円位で大きな家が一軒買えたと聞いていますが、裕福なビジネスマンでも女中のいない家もありました。
私は親戚が非常に多かったのですが、結構裕福な家でも、家族構成、つまりお嫁入り前の修行と言う形で、家事を担当する年頃の娘達がいて、女中が必要ではない、とか、住み込みの女中は煩わしいと感じる人もいたと思います。
時と場合によって、派出婦とか家政婦と呼ばれる人を雇ったりしている家もありました。

戦後は、住み込みの女中さんがいる家は非常に少なくなったのではないでしょうか。
誰それさんの家に電話したら、女中さんが出て来て、「只今、旦那様と奥様はお出かけでございます」って、言われたのよ、と、珍しいニュースのように聞いたこともありますし、例えいたとしても、昔のように、行儀作法から家事全般を教え込むというのではなく、文字通り臨時の仕事や家事のお手伝いと言う存在ではないかと思います。

以前、知人に、何気なく、ねえや、と言う言葉を使って、あっという間に、住み込みの女中さんがいるようなお金持ちだったんだって、とあちこちにしゃべられたこともありました。
昔は、中流階層以上向けの比較的大きな家には、私の知っている限り、必ずと言ってよく、女中部屋と呼ばれる、3畳ひと間に押入れだけがついた部屋がありました。
以前、調べがついたことですが、戦時中、おそらく学童疎開なども始まる頃、女中禁止令と言うのが出されたと言われ、それから敗戦、戦後の困窮生活が続き、住み込みの女中と言う習慣そのものが絶えたに等しい期間が続いたのだと思います。


説明的なことをダラダラ書いてしまいましたが、映画は、現代、この物語の主人公、若い頃女中をしていた、布宮タキ(倍賞千恵子、若い頃:黒木華)が独身を通して、亡くなり、親族が葬儀を執り行う場面から始まります。

タキの兄弟の孫、つまりタキが大伯母になる、健司(妻夫木聰)は、毎日のように年老いたタキを訪ねていたが、ある日、タキが大学ノートに、女中をしていた、若い頃の思い出を書き留めていることに興味を持ち、先を急かしたり、こういうことも書いてと注文を出したりして、ノートの完成を楽しみにしていた。

つまりこの映画のお話は、タキが年老いてから亡くなるまで、健司に催促されながら、ボツボツと昔を思い出し、書いた、大学ノートに拠るという設定です。
当時の活き活きとした情景に、老いの霞がかかっているような気がしないでもありませんが。

タキは山形県の出身。家が貧しいため、娘が身売りされたりする環境で、彼女は東京で住み込み女中の道を選ぶ。

因みに私が幼児期を過ごした祖父母の家の女中さん達は、殆ど千葉の出身と聞いていました。非常に貧しい家の出というわけではなく、祖父が一族を連れて、館山の辺りに住んでいた頃の伝手を通して、と聞いたこともあります。
現に、子供の頃、千葉県の駅で、二回、私の名前を呼んで、祖父母の家にいたことがあると声をかけられました。一度は鴨川駅でした。
言葉遣いなども教え込まれるので、非常に丁寧です。私の名前がハナコだとしたら、「失礼ですが、ハナコお嬢ちゃまじゃございませんか。お宅にご奉公していたタキでございます」と、小学校低学年の女の子に、二度と聞くことがあるとは思えない丁重な呼びかけでした。

映画にもどります。最初に小説家の家で奉公して、一年後、タキは、赤い三角屋根の小さいおうち、平井家で働くことになる。
主人の平井雅樹(片岡孝太郎)は玩具会社務め。美しい妻の時子(松たか子)と一人息子恭一、の三人家族。
モダンで印象的なおうちだけど、間取りがどうなっているのか、よく分かりませんでしたね。
家族の部屋と少し距離をとった所に、女中部屋が確保できているのか(それらしき部屋はありましたが)と思う、見た目の小ささで、後に登場する若い社員は、商店の二階に間借りしていると言う設定ですから、ごく普通のサラリーマンの家と言う感じです。

当時中流階級でも女中を置いたのは、家事が全て手仕事で、広い家では、主婦一人の手に余るという事情があったからで、その点では、この小さいおうちが住み込みの女中を雇うことが必要だったかという気もしましたが、それはともかく、ある日恭一が高熱を出して、小児麻痺を発症し、治療のために足のマッサージをしなければならないことになり、とにかくタキは、先ずはマッサージを精魂込めて続けることになります。

時子は激しい気性の持ち主でもあるが、タキには家族の一人のように、優しく温かく接する。タキは、時子に憧れ、愛情と言ってもいい感情を持つ。

お正月に社員が平井家に集まる。中に入社して間もない板倉正治(吉岡秀隆)がいた。
デザイン担当の板倉は、他の者の会話に馴染めず、恭一の部屋で、時子と音楽の話などで意気投合する。

その後も板倉は時々平井の家を訪れ、時子と話していたが、ある嵐の夜、雅樹は出張中で、板倉は平井家に駆けつけ、雨戸や毀れた屋根の修理などをする。
停電で帰れなくなった板倉は泊まって行く。
暗闇の中、一瞬の光に、時子が自分から口づけをする姿が浮かぶ。

タキに三人の子供がいる中年の男性との結婚話が持ち込まれる。
結婚したくない、このまま時子に仕えていたいと願うタキの胸の内を汲んで、時子はいい人が見つかるまでここにいればと言う。

板倉への結婚話も持ち上がり、時子は写真を持って、板倉の下宿先を訪れる。
何回目かに、時子の帯が出かけた時と柄が逆になっていることにタキは気づく。

太平洋戦争が始まり、徴兵検査で丙種だった板倉にも、ある日遂に召集令状が届く。
出征の日、どうしても一度会いたいと願う時子は、タキに押し留められ、手紙を届けるように頼む。
宛名のない手紙を持って、タキは家を出る。時子は板倉を待ち続けるが、板倉は来なかった。

その後の時子の運命はひと言で語られます。


この映画の予告編を見た時、タキが、時子に、誹るような調子で、詰め寄るように話しかけている短い場面があり、どういう事情が語られているのか分からないけど、当時ごく若い女中が奥様にああいう口のきき方をするなど考えられないことと、正確に雰囲気や事情が捉えられているのだろうかと思いましたが、映画を見て、納得しました。

タキが主人公であるけど、住み込みの女中と言う役で、常にご主人の言うことを聞き、黙って仕事をこなし、自分の思いや言いたいことを口にすることも殆どなく、つまり、この映画のように、ずっと後になって、自分の思いを何らかの方法で語るしか、当時の自身や、仕えている奥様や家族のこと、日々の出来事を、語る、伝える術はないということに今頃気づきました。最初の方に書いた、大学ノートが必要だったかということも訂正した方がいいと感じています。

時子役の松たか子が本当に美しくて、活き活きとして、魅力的だったと思います。
普通に好きと言う女優さんでしたが、この時子役は忘れられないと思います。
あまり変化のない日常生活で、傍目には、実は、夫とは異なるタイプと言う以外に、それ程惹きつけられるものもないように感じる板倉に、芸術や音楽の話をちょっと交わして、気が合ったからと言って、また、たまたま、嵐の夜に逢ったからと言って、外から丸見えの、粗末な下宿の梯子段を上がって、板倉の住む二階へ行く、何回も、ちゃんとした奥様のすることじゃないのに、また不倫には厳しい世情であるのに、まるで自身を制しようというところが見えない、タキの、奥様に背く行動によって(それも時子自身は気づかない。タキは自分の言うことを聞くと信じている)、ピリオドが打たれる・・・次に時子に降りかかる運命を思えば、私でもタキのやったことは正しかったのかと思ってしまいますが。
そんな時子の儚さ,危うさも松たか子は演じきっていたと思います。

それに対して、タキを演じた黒木華は、まず、容貌も雰囲気も、住み込みの女中、タキその人になり切っていました。
当時の住み込みの若い女中は、ねえや、とか、名前、タキさん、呼び捨てでタキ、タキや、などと呼ばれ、髪はハンで押したように、真ん中で分けた引き詰め髪、割烹着姿で、冬は手が霜焼けやアカギレで赤く膨れ上がっている。

黒木のキリッとした表情は、気が効く、役にたつ女中さんだったと思わせる。
いつもハイ、ハイと、言われることに従っているが、タキは時子奥様に憧れている、真に好きだし、愛情を抱いている、だから、ここはどうしても奥様を留めなければと言うところでは、後に後悔することにもなる、ある意味出過ぎた行動もとってしまう、長生きをしたけど、思いは常に当時のこと、時子奥様のことにある。
年老いたタキの存在もタキのことを語り継ぐ健司の役割も明快となる、最初は印象が薄かったのに、書いている中に納得の構成であることが分かりました。

あの時代の、しかも住み込み女中、と言う階級社会のにおい、名残りを感じさせる、つまり今、現在、受け容れられるか、興味、関心を惹くか、と言うテーマ、ストーリーで、これだけ、映画そのものの魅力をタップリ持った作品が現れたことにまず驚きました。
プロットにメリハリもある。
映画として、はっきり言えば、エンターテインメントとしても楽しめました。
個人的には、私の昔のことを、まるで眼前に自動的に繰り広げるように思い出させてくれた忘れられない作品となりました。  《清水町ハナ》

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コメント(5件)

内 容 ニックネーム/日時
はじめまして!
映画「クロワッサンで朝食を」を検索していて辿り着きました。私も昨年観ましたがいい映画でしたね!好きな映画が一つ増えました。

小さいお家…感想を読ませて頂き見に行きたいと思いました。 今日は割引デーですものね。まだ間に合うかしら。

無理だったら日を改めてでも観たいものです。

今楽しみにしている映画は「はじまりは五つ星ホテルから」と(渋谷で上映中)もうすぐDVDレンタル出来る「タイピスト」です。

またお邪魔させて下さいませm(_ _)m
豆ランタン
2014/02/05 13:02
豆ランタン様、コメントありがとうございます。「小さいおうち」はいい映画だったと思います。世代によって感想が少し異なるかも知れませんが。「クロワッサンで朝食を」などと比べると、日本人の、表面淡白に見えて、内にこもる感情が伝わって来る・・・そのあたりも感じとれたと思います。
この映画をみたいと思ったら、すぐご覧になる、本当に映画好きでいらっしゃるんですね。私も昔のようにはいきませんが、できるだけこれと思う映画を見るようにしたいと思っています。
清水町ハナ
2014/02/05 23:21
小さいおうち…昨日どうにか観ることが出来ました。
余韻の残る素敵な映画でしたね!登場人物が丁寧に描かれており愛着がありみんな好きです!

気になった事を書きます。(あくまでも私の主観)昭和初期なら台詞はもっとゆっくりした喋り方の方がいいなあとか。

あとインテリアやファッションも難しいのかもしれませんが 一工夫欲しかった。シルエットや素材など。結構こだわるんです!オタクですね。

予算があるので難しいんでしょうね。

タイムスリップしてあの時代にお邪魔してみたいと思いました。戦争はイヤだけど…。

大正生まれの叔母や昭和初期の両親が当時どんな生活を送っていたか帰省したら聞いてみようと思います。

兼業農家の実家(昨年商店を閉じました)植木屋の母宅。田舎なので多分質素な生活だったでしょう。
豆ランタン
2014/02/06 11:44
おっしゃる通り「登場人物が丁寧に描かれている」(脇役にいたるまで)と思います。喋り方がもっとゆっくりだったのでは、と言う点については、当時は目上に対しての敬語などをきちんと使うように言われたし、子供も今より丁寧な話し方をしていたと思うので、その意味ではゆっくりだったかも知れませんが(当時の狭い範囲での見聞きで、主観に近いかも知れませんが)、映画は現在見る人が聞いて納得する話し方でいいのではないかと思います。当時女性は外出時も家でも殆ど和服で(戦争が激しくなるとモンペ姿)、私自身はファッションについて特に記憶していることはありません。普通の和風の家も似たような建て方が多く、インテリアについてもここにはこういう家具などと割りに同じ感じだったように思います。応接間などにはその家の個性が出ていたかも知れませんが。昭和10年代と言うのは、何しろ戦争の時代ですから、細やかな懐かしい記憶というものが次々消されて行ったという思いがありますね。
清水町ハナ
2014/02/07 13:22
映画も好きなんですが 以前は 数少ないのですがバレエ・ミュージカル・歌舞伎など舞台を観るのも好きでした!

懸賞が好きで以前は時々当選していましたが 最近はサッパリ…。

当たらなくなってからもパートをやっていたのでたまに観る余裕はありました。

今はパートもやっていませんし 何せ交通費も含めお金がかかりますものね!
今は絵を習っていて一昨年 個展を開きました。趣味は絵一本です。

お金のかかる事ばかり好みますよね(>_<)
金食い虫藍vに感謝!

今月末は新聞店から頂いたチケットで友人と博物館や大正時代のレトロな和風家屋を見に行く予定。
無料の講座など探すのがわりと得意です(^-^)
こういうのは友人にも声掛けやすい!
豆ランタン
2014/02/07 16:46

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