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zoom RSS 思い出エッセイ〔453〕映画雑記帳201「【風立ちぬ】感想など」

<<   作成日時 : 2013/07/28 08:37   >>

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 【風立ちぬ】(声:庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊、西村雅彦、大竹しのぶ、野村萬斎、他、監督;宮崎駿)。

思いついたことの流し書きです。

「風立ちぬ」と聞けば、私の世代や上の世代には、堀辰雄の小説です。
零戦の設計者と「風立ちぬ」がどういう風に結びつくのか見当がつかず、映画を見るまで、何となく落ち着かない気分でした。

映画が始まった途端、吸い込まれるように画面に見入りました。昔懐かしい故郷日本、そんな一番使い古したはずの言葉が浮かぶ、優しく穏やかな色の風景、旧い、落ち着いた、ゆったりとした街並み。絣の着物に袴、下駄姿の少年が、違和感なく登場します。

主な時代は、大正から昭和の一桁で、主人公の堀越二郎は、私の両親の世代の人ですが、この作品の情景や雰囲気は、分かる、知っている、と感じるもので、戦争が激しくなるまでの昭和の日常生活は、人も暮らし方も、そう大きな変化がなかったと言えるのではと感じました。
但し、ラストは敗戦の年、1945年と設定されていて、直接的なシーンはなくても、戦争が終わるまでの昭和を描いていると言えます。

飛行機に魅せられて、夢に見るのも飛行機、と言う二郎少年が、学校の先生から専門書を借りる時、「拝借します」と言うのを聞いて、そうそう、特に目上の人に対する敬語は徹底的に教えられた、と思い出しました。
私に少々でも年の離れた兄姉がいたら、敬語を使い、絶対?服従だったと思います。
ご近所の方に会ったら、きちっと立ち止まって、手を前に揃えて、丁寧にお辞儀、他色々ありました。以前、ちょっと書いたことがあります。

雨戸が、直角に曲がる箇所がある家が親戚にもあった、角へ来ると、ちょっとした操作が必要で、それはマスターして、何度も手伝ったことがあるのに、戸を少し前へやって、下の金具で方向転換するのだったか、はっきりとは思い出せない・・・
自分が住んでいた家や、多くの親戚の家が、殆ど昭和一桁に建てられたものだったので、映画に出て来る家や、当時の情景の一つ一つが、あ、もうちょっと見たい、と思う懐かしさがありました。

何故昭和一桁に建てられたものが多かったか、関東大震災のためです。震災の被害を受けた範囲と言うことになりますが。
大正12年(1923年)9月1日。私の母が地元の女学校に入ったばかりの年で、当時祖父は、大家族を率いて、東京から千葉の館山の辺りに建てた大きな別荘と言うか、大家族向きの住宅に移り住んでいたのですが、震災で、家は全壊し、建て直したものの、結局昭和になって、東京へ戻ることになったそうです。
母は渋谷の猿楽小学校の出身なので、千葉に越して、何ヶ月も経たない時ということになり、その辺を聞きたいと思っても、もう人づてにでも当時を知っている人は一人もいなくなりました。

私事を書いてしまいましたが、関東大震災が起きた時、主人公、堀越二郎は、東京帝国大学の学生、汽車に乗っていたところです。
学生なので、三等車、親と一緒なら二等車(今のグリーン)に乗ったと思われます。
軽井沢のホテルに泊まったり、妹は医専に進学するなど、比較的裕福な家と思われるので。

汽車で居合わせた少女が,風で飛んだ、二郎の帽子を身を乗り出して、取ってくれた。その時、大震災が起きる。少女に付き添っていた、ねえやと思われる女性が足を怪我したので、手当てをしてから、少女の家まで送ろうと、ねえや、お絹をおぶって歩き出すが、混乱の中、危険なので、迎えの者に来てもらうために、お絹を避難所の神社に待たせて、少女の家へ行く。
その後、大学へ駆けつけるが、大学の校舎にも火が移る。

この震災時の、東京の家々や建造物が、崩壊し、次々と出火し、燃え上がる様が、真に迫っていて、恐ろしくなる程です。
研究室から必死で持ち出した資料や図書にまで火が燃え移るシーンには、そこまでしなくてもと思ってしまいました。
関東大震災による10万人の死者の多くが火災によるものとされています。
昭和20年(1945)3月10日の東京大空襲による死者も10万人で、大震災の後、復興した街並みが20余年を経て、人の手により再び一気に燃え上がるのです。

二郎は東京帝大では航空工学を専攻し、飛行機の設計に関わることを決めている。 
この二郎と言う青年は、非常な秀才であるのに、頭のいい人間にありがちな冷たさとか高慢さとは無縁で、真面目で優しく、豊かな人間性を言葉にも行動にも滲ませている、好青年です。ブレが全くない人と言う印象です。

親友の本庄と、切磋琢磨、と言うのはちょっと当たらないかも知れませんが、もっとスマートに専門的なことに関して、テンポの早い、しかし冷静な淡々とした調子の会話を続けながら、次々に行動に移して行く様子も、見ていて気持ちのいいものがあります。
航空機の設計や、それに関わる結構専門的なことも描かれますが、こなれていて、難しいとか退屈という感じはありません。
二郎は、名古屋の三菱内燃機に勤務して、黒川をリーダーとする、飛行機の設計班に配属されるが、完成した飛行機は、テスト飛行で、空中分解し、完全な失敗に終わる。

一方、二郎に助けてもらった少女、菜穂子は、もう一度二郎に会いたいと思っている。
実は二郎も、菜穂子に惹かれていた。
汽車で会う菜穂子は、十歳位に見え、ちょっと幼過ぎる設定だったような気もします。
20歳の青年が10歳の女の子に恋心を抱くでしょうか。
まあ、この辺は、あの子ならきれいになっているだろうなあ、みたいな感じかも知れず(こういう書き方と言うか、捉え方は二郎のイメージとは合わないかも知れません。下世話なことをちょっと書いてみました)特に問題にすることもないかとも思いますが。
お絹も二郎が好きだったかも・・・

一度は、お絹がお礼を持って、二郎を訪ねて来たが、ひと足違いで会えなかったという行き違いがあったが、その後、軽井沢で、絵を描いている菜穂子に偶然出会う。二郎はその場では、あの時の、と分からない。
菜穂子の方から、すぐ分かった、ずっと会いたいと思っていたと告げる。二人はお互いに惹かれ合い、菜穂子の父親も二郎を食事に誘うが、菜穂子は急に熱を出す。
二郎は菜穂子を見舞って、紙飛行機を飛ばして戯れたり、一見無邪気に好意を愛情に変えて行くように見える。

この辺から、堀辰雄の『風立ちぬ』に入り込んで行く感じです。

二郎は、菜穂子の父に彼女と付き合うことを許してくれるように言う。
娘の体調などを考えて父が即答できないでいると、菜穂子が現れ、二郎と付き合いたいと、自分の気持ちをはっきり告げる。更に自分が結核を病んでいることを打ち明ける。
(この頃、結核は肺病と呼ばれていて、ストレプトマイシンなどが登場するのは、ずっと後、戦後暫くしてのことで、重症になると死に至ることが多かった病気です)。

名古屋に帰って、再び飛行機の設計に取り組む毎日。
特高が二郎に目をつけていると言う情報が入り(どういう理由だったか、見過ごしてしまいました)、二郎は上司の黒川の家の離れに住むことになる。

菜穂子は、ある日喀血し、高原の病院に入院する。
二郎は手紙を書いても、仕事から離れられず、見舞いの約束もキャンセルせざるを得ない。
菜穂子が名古屋にやって来る。

二郎は、黒川に、このまま菜穂子を一緒に住まわせて欲しいと頼むが、黒川は、結婚していない二人を一緒に住まわせることはできないと断る。
二郎はその場で、今日結婚しようと菜穂子に言い、黒川の家で、夫妻二人だけに見守られて、結婚式を挙げる。

いつも穏やかに、常識的に(と言うとあまりいい響きではないかも知れませんが)振舞っている二郎が、心に決めていることを実行に移す時は、何の迷いもなく行動を起こす、心動かされる場面であり、静かに穏やかにすすんで来たストーリーが、突然(に見えるが)二郎が迷いのない決然とした行動をとることにより、映画が靜から動に転じ、見る者もはっと心を動かされ、あらためて二郎に共感を覚える、印象深い転換点でもあります。

殆ど床に伏せっていることが多い菜穂子を、医師になった、二郎の妹加代が見舞い、心を通わせ、医師としても菜穂子を見守る、いい場面、エピソードだと思いました。

昭和10年(1935)9試単座戦闘機のテスト飛行成功。
堀越二郎が、零式艦上戦闘機、所謂「零戦」の主設計者となり、初飛行に成功するのは、昭和14年(1939)4月のことです。


非常に印象深いラストシーンが終わった時、私は不意に涙がこぼれそうになりました。
まず、この映画に対してですが、色々こみ上げるように思うことで、胸がいっぱいになったのだと思います。おそらく多くの観客の方が、それぞれの思いを持たれたでしょう。

私個人は、この映画は、もし戦争がなかったら、と言う仮定を描いている、とまず思いました(これが製作者の意図と思っているわけではありません)。
私自身は、長い人生で、もし戦争がなかったら、と考えたことは殆どありませんでした。
シミュレートするように言われても、できない、する気がない、と答えると思います。
それが割りに最近になって、もしあの戦争がなかったら、と、たまにちょっと考えることがあります。ごく平凡な続きを少々思い浮かべるだけで、すぐに想像の芽は消滅してしまうのですが。
それほど戦争で、親の世代の身近な者とその次の世代に属する者は特に、私も大きく運命が変わりました。

映画を見終わってから、戦争のことが頭から離れなくなったのも、影響の一つと言えるかも知れません。戦争の場面は、殆どなかったのに、却って戦争を思い出したのです。

本筋を後回しにすることになりますが、最初に頭に浮かんだことから書きたいと思います。

この映画がその半生を描いたと言われる、堀越二郎が設計していたのは、戦闘機であり、特に、当時の敵国、米英の空軍が、出会ったら、逃げるしかないと言う時期も長かった、零式艦上戦闘機、所謂「零戦」の設計者として、その名を後世に残している人が主人公です。

以前、NHKの特集番組があり、メモをとっていなかったので、覚えていることだけちょっと書いたことがあります(拙ブログ〔247〕)。
アメリカの、当時(戦中)のパイロット達のインタビューをとっていて、口を揃えて、零戦がどれ程優秀な戦闘機だったか、航続距離が長い、戦闘能力が高い、またパイロットが非常に優秀だったことを証言しているのですが、零戦に遭遇したら、逃げるしかない、それでも追いつかれて、撃ち落とされてしまうので、援軍として出撃することを(指揮官が)渋った、などを始めとして、対抗策を色々考えた、例えば、1機の零戦に2機で対抗して、1機を追う零戦の後方にもう1機がついて、攻撃する、など、が語られていて、戦争の中期以後は、アメリカも優れた飛行機を製造するようになったとは言え、零戦が卓越した名機であったことは史実として残っている(今後も)わけです。

この映画で、零戦、と言う言葉は一度も出なかったのではないかと思います(聞き逃したかも知れませんが)。
ただ、一度だけ、多くの飛行機(おそらく零戦)が無惨な姿で、破壊され、朽ちているシーンが、画面いっぱい大写しになります。
零戦は、所謂「日華事変」時から実戦に使われ、太平洋戦争中は、敗戦に至るまで主力戦闘機であり、特攻機として使われたこともあると言われています。

この映画は、殆ど戦争に触れていませんが、上記の1シーンだけで、製作者の姿勢は分かります。

堀越二郎は、最後まで戦闘機の設計、製造に関わるわけですが、ストーリーは、『風立ちぬ』へスッポリと移行します。

今の若い人が堀辰雄の『風立ちぬ』を、ある種の必読書のような形で、読むのかどうか、知りませんが、十代の後半に読んで、最もよかった、或いは感動した本と、私が聞かれれば、『風立ちぬ』を、他の二三の候補と共に挙げることになります。

映画化もされているのですが、見ていず、この映画が初めてということになります。
子供と一緒に見た時以外、映画館でアニメを見たことは、10本に満たないと思います。
アニメを知らない人間が、『風立ちぬ』がアニメになりにくいのではと言う資格もないと思うのですが、それが、この映画の「風立ちぬ」に惹き込まれ、魅入られた、と言っていい、自分の勘など当てにならないものです。

しかも主人公は、普通は、気難しく、妥協しない、近づき難い、など、魅力とはほど遠いのでは、と想像しがちな、主力戦闘機の設計者なのに、飛行機少年がそのまま成長したような、感じのいい、魅力的な青年が、登場し、すっと「風立ちぬ」に入り込んだ。
堀越二郎が、違和感なく、「風立ちぬ」の主人公になったのです。
まあ、戦争中の、戦闘機の設計者であろうと、個人としての生活はあるわけですが。

実は、主人公は、堀越二郎である必要はないのに、おそらく、監督がよほど堀越二郎を尊敬、或いは親近感を抱いていて、主人公にしてみたい、しかし、一生を描くことはできない、ストーリーとして、全く趣きの違う、実は監督の愛読書であったかも知れない、時代的にも初版刊行と映画の設定時期がほぼ同じである、『風立ちぬ』と結びつけてみたい、また堀越二郎と堀辰雄は、ほぼ同年(1歳違い)、一高では理科と文科に分かれますが、同学年、堀辰雄は、肋膜炎を病んで、東京帝大では卒業が遅れるものの、同時代に生きた人でもあります、堀越二郎と堀辰雄その人を結びつけてみたい、そう考えたのでは、そんな勝手な想像をしてみました。

そして、ストーリーとして、アニメ映画作品として、見事に成功した、そういうことではないでしょうか。

一つ、時間の流れに、少々不自然なところがあるように感じました。今日、明日、精々一週間のこと、と思うと、実は数年、時としてもっと年月が経っているあたりです。
もう一つこれは書くもがなのことかとも思うのですが、「風立ちぬ」に逃避した、と言う感じがしないでもありません。

いい映画だった、最初から最後まで惹き込まれた、監督が意図したと言われる、大人向けのアニメとしても、成功したと言える、しかし、私は、この映画をきっかけに、色々なことを思い出し、考え、映画では描かれなかったことにも思いを致すようになり、この映画について、新たな感想も出て来るかも知れない・・・そんな中途半端な気持ちのままで一度ペンを置きたいと思います。
アニメ映画を一度も見たことのない方にもお勧めです。  《清水町ハナ》

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映画「立ちぬ」★★★ 庵野秀明、瀧本美織、西島秀俊 西村雅彦、スティーブン・アルパート 風間杜夫、竹下景子、國村隼 志田未来、大竹しのぶ、野村萬斎 声の出演 ...続きを見る
soramove
2013/07/29 15:17

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