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zoom RSS 本の雑記帳9「海堂尊『死因不明社会』感想」思い出エッセイ〔104〕

<<   作成日時 : 2008/01/29 02:09   >>

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 海堂尊『死因不明社会−Aiが拓く新しい医療−』講談社、ブルーバックス。実は小説と思って、買ってしまいました。☆4つ半。これは、また読み応えのあるメディカル・ミステリーが読めると思ったのですが・・・‘Ai’とは、Autopthy Imagig、「死体(死亡時)画像診断」のことだそうです。Aiの普及を訴えるべく、お馴染み厚労省官僚の白鳥圭輔室長に、別宮葉子記者がインタビューを行う形の、論文風ノンフィクションです。

あっという間に配達された、本書を見て、しまったと思ったのが、最初の本音です。
海堂氏の新作なら、上梓されたことを、全く知らなかったというのもおかしかったのに。

今は、こんなシチメンドクサイ訴えに目を通す暇はない、第一、「死体画像診断」など、病人を抱えているわが家には、大凶とまでは行かなくても、凶のお御籤同然ではないか。

でも、‘買ったら、書く’。関西に数年住んだので、転んでもただでは起きない習慣(関西の方には失礼します)をカケラなりとも持ち合わせている所為か、パラパラと繰っている中に、わが家と無関係ではない問題もあるように思え、取り上げることにしました。

一ヶ月で4刷とあります。関心を持つ方が多いのでしょうし、海堂氏が、新聞でかなり大きく紹介されていたことも影響があるのでしょう(これもチラッと目を通して、切り抜きましたが、行方不明。その記事には、この本の紹介があったはずですが)。

海堂尊氏が、基礎に移られ、「死体画像診断」の専門であるということが、記事にあったことは覚えていますが、その時は、アサハカにも、‘男性コーンウェル’を目指されるのかということが脳裏をよぎりました。

著者、海堂尊氏については、現役の医師であること位しか、今迄は記されていませんでしたが(1年位前の「サーイサラ」のインタビューで、臨床から基礎に移られたことは知っていました)、本書では、「外科医を経て、研究系病院の病理医として勤務」と、経歴が明かされています。

帯の言葉の一部を紹介します。
「〜、ロジカルモンスター白鳥圭輔が日本の医療の闇を斬る!」、「『死因不明社会』とは、変人官僚白鳥の主張でもある「エーアイを社会制度に組み込むべし」というメッセージをダイレクトに発信し、正面突破を図った書である。つまりこの本は、『チーム・バチスタの栄光』の原点なのである」

余談ですが、ご存知のように、映画『チーム・バチスタの栄光』が、間もなく封切られます。配役は、意表を突いて、田口公平医師役が竹内結子、白鳥圭輔は、何と阿部寛です。
阿部の白鳥は、いいかも知れない。残念ながら?(私のような)ミーハーの観客は、ロジカルモンスターが、背の高い二枚目である方を好むでしょう。
この‘正面突破’のマジメな本の売れ行きもよくなるかも知れません。

海堂先生の著作について、書こうとすると、こっちまで、饒舌になってしまいます。
時折、饒舌過ぎる箇所や(例えば、『ブラックペアン』の、手術前の、手洗いの描写。スゴク巧みで、活き活きしているけど、何例も手術のお手伝いをしていない、研修医のすることとなると、疑問符がつきます。おそらく優秀な外科医だった、ペンネーム、海堂尊先生が、手洗いが好きだったのではなどと穿った見方をしてしまいます)、平板な書き出しとか、いささか不満を感じるのですが、本書の「プロローグ」は、病理医として、書かれたと思います。簡潔で、続けて読みたくなる文体です。

最初の部分を引用します。
「人は必ず死ぬ。だから医療は必敗の闘いになる。だが人は、必敗だからといってその闘いを止めようとはしない。なぜなら人は、「生きる」という行為を遂行し、その存続を目指すように、無条件にプログラミングされているからだ」

それなのに、この基本姿勢から、現代医学の潮流はかけ離れている。
(ある時期までは)、人が死ぬと、その体を解体し、死因を調べ、そこから得たものをフィードバックさせてきた。
それが、日本の現状は、解剖率2%と、先進国最低である。
日本では、年間100万人以上の人が亡くなっているが、その98%は、「死因不明」と言える。
多くの殺人や、虐待死が見過ごされている、とも述べています。

解剖は、遺族の承諾もとりにくい(特に死者が幼児の場合)、必要な人員や態勢、設備を整えることが困難、時間もかかる、その上、厚労省は予算をつけない。
そうした、解剖に替わる(完全にとって代わるということではありません)、‘エーアイ’の普及を、作家である前に、まず病理の医師として、白鳥の言葉を借りて、様々な資料、数字、根拠を述べながら、主張しているのが、本書です。「索引」「引用文献、論文」も記されています。
東京23区は、何の問題もない、と、東京郊外も含めた、地方との格差についても触れられています。

白鳥圭輔と、新聞記者、別宮葉子のインタビュー形式の本文は、時として、あまり面白くないダジャレやチャチャを入れたりしていても、決して読みやすいとは言えません。
(バカに、もの分かりがよくなった白鳥が、‘ブラボー’などという言葉を頻発しますが、コンサート以外に、こんな声を発する人がいるかな・・・)

あくまで真面目な主張ですので、マゼッカエシは極力控えます。というか、そんな余裕はありません。

エーアイとは。白鳥圭輔の説明によると、「死体の画像判断と理解しましたが」という葉子の発言に、「素人にとっては、おおむね、その理解でいいだろうね」と答え、「狭義の定義が〜「死体の画像判断」、〜広義だと「死亡時画像病理診断」つまり画像と病理所見の融合まで視野に入ってくる」(p118〜pp119)。
そして、同じ頁に、「素人さんにもわかりやすく〜説明しておこう」という科白があります。

ここで、ガックリきました。読むだけ無駄じゃないか、と。
著者が想定している読者は、ギクシャクした間柄という(著者)、法医学会(と言っても、法医学者は100人しかいないそうです)と病理学会、その他の関係者、ということになるようです。
しかし、著者が望む、エーアイの制度としての確立は、一般人、つまり白鳥のいう‘素人’の理解と協力なくしては、叶わないことでしょう。或いは、それが全てではないですか。
その一番のターゲットを、‘素人さん’と切り捨てて、理解が得られるのか。

筆者は、専門の医師ですが、患者や家族は、私のように、ドのつく素人でも、一旦病気になれば、特に難しい病気になれば、必死に専門医や、その病気の治療については定評のある病院で、最高の、とまでは言わなくても、信頼できる腕を持つ医師に罹りたいと願います。資料を読み、ネットで調べ、俄か専門家となります。
著者が書いている通り、「(既にプログラミングされている)生きるという行為を遂行する」ため、或いは、その行為を、家族として助けるためです。その意味で、素人とは言えません。

特に、患者の側の、病気を治したいという熱意、願望は、医師には、読みとれない場合も多いと思います。
家族の病気を治したいが故に、あれこれ意見を言ったり、質問をしたりする者に、担当医師が、素人が何を言うか、という態度をとると、この医師は、本気に患者のことを考えてくれていないと思ってしまいます。
どんなに優れた医師でも、自分が患者にならない限り、患者や家族の気持ちを完全に理解することは、難しいと思います。

本書で、まずネックになるのは、死者の死因究明手段がテーマであることかな、と最初に思っていましたが、甘かった。
死んでしまえば終わり。その死者の遺体の取り扱いについて、今を時めく作家が、急に身分を明かして、初めて聞く、「死者の画像診断」なるもので死因を究明し、死因不明者を少しでも減らそうなどと、真面目に主張するということはと、何やら落ち着かない気分になっていたのが、当たりのようです。

亡くなった患者の家族が、解剖に応じるのは、文字通り死因を知りたいと思う時、医師や関係者の懸命な治療や看護に応えたいと思う時だと思います。
遺体を傷つけるのではない、ただ撮影をして、画像診断するだけ、ということなら、応じる家族は多いでしょうけど、まだ治療中の患者にしてみると、‘使い捨ての’布に厳重に包んで、患者用のCTなどで、撮影するという、写真を見て、これならいいと思う人は少ないと思います。
別宮葉子の言う「解剖と違い、(エーアイは)遺族の精神的負担が限りなくゼロに近いですからね」(p138)とは、言い過ぎだと思いますね。

その前に、特に、今治療中の患者や家族の中に、本書を読んで、著者が、98 %という‘死因不明率’を、少しでも低くすることに貢献したいと思う人が、どれだけいるか。
健康な若い人は、全然OKと、いう人が多いかも知れませんが。
私の結論を書くと、私が死んだ時は、原則として、エーアイ、OKです。
但し、こんな所で、こんな死に方をしたくなかったという時は、意識がはっきりしていれば、NOと遺言します。

それから、もう一つ、この本を読んでいると、安らかな死こそ、死因不明ということになるのでは、と言われているような気がしてきます。愛した人、身近な人の死を、今更死因不明と考えるっていうことでしょうか。
などと書くことが、既に‘死因不明社会’などというビッグ・タイトルの術中に嵌ったことになるのかも。

それから、ド素人として、こういう問題もあるのでは、ということを1点挙げておきます。
数日前に、テレビで、大病院に導入されている、大型の画像診断の器械について、600枚もの写真を読影しなければならないところを、コンピューター診断ができるようにしたが、過剰診断となることがあるのが、問題点と紹介していました。

身近にこんな例がありました。この大型器械の診断によって、各所の転移を伴った癌であると診断され、絶望しながらも、臨床病院で治療を受けるべく、転院したところ、最初からやり直した多くの検査は、全てシロと出た。といって、原発癌のあることは変わらない。転移場所が全て、過剰診断だったということです。
もし、最初に、画像診断を受けた病院で治療していたら、その究極の画像診断により、抗癌剤などの投与治療を受ける可能性も大きかったということです。

エーアイも、過剰診断により、無実の殺人者や幼児虐待者をデッチあげる危険性はないか。
それこそ死人に口なし、です。

帯に、気になることが書いてあります。表に、「『チーム・バチスタの栄光』は、この本を書くために生まれた! 海堂尊」
裏には、「エーアイの普及に限界を覚えた時、物語の形で訴えれば効果があるかもと思いついた。−後略−海堂尊」。

小説にでもしたほうがいい話とか、ネタとかがあって、事実、才能と運に恵まれた人が実現させることもあるでしょう。でも、人間の生き死にに関することで、これってありでしょうか。私は、賛成できないし、ホントに、そんな動機で、「このミス」大賞の、あの小説が書かれたの、そして、こんな帯をつけたということは、メディカル・ミステリーの作家としては、筆を折るっていうことですか、と聞きたくなります。
出版社の意図や広告にのったというだけのことかも知れませんが。
映画も公開されるのに、などとボヤイテいるのは、私だけでしょうか。

このブログが、書き出しと、途中、最後の方、と、テンションの急降下と共に、著者の意図紹介を端折っている、内容的にも変化していることを認めて、(つまり矛盾もあるということですが)、あえて、感情的であることも認めて、このまま出すことにしました。患者、その家族の立場からの本心です。

海堂尊先生、本書は、本名で、専門家対象に書かれるか、せめて、白鳥圭輔ではなく、作家、医師、海堂尊として、知識と意見を展開されるべきではなかったでしょうか。

それと、いささか、意地悪い疑問。海堂氏は、まだ40代の方です。医師としては、最も活躍できる年頃でしょうけど、数年前、もっと前に、作家を兼業されている、しかも外科医から基礎に移られたのは、大賞作品を書く前ということだと、まだ30代。お偉方が多いという噂の、法医学界、更には病理学界、厚労省までを相手にして、「エーアイ普及活動に限界を覚える」ほどの立場におられたのでしょうか。

こんなことを書きながらも、公平を期するために、新たな問題提起をした、一読に値する書であることは、書いておきます。
また、病院の救急救命病棟に運び込まれて死亡した患者の90%は、エーアイにより、死因特定が行われている、という、現場の必要処置となっているという現実もあるということです。

作家、海堂尊氏が、田口公平であるなどと考えてしまうのは、愛読者の常です。田口公平の姿をした、ロジカルモンスター・白鳥圭輔であるというのは、当然、考えられることなんですよね。うっかりしていました。  《清水町ハナ》

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内 容 ニックネーム/日時
海堂 尊(かいどう たける、1961年 - )は、日本の作家。

千葉県生まれ。本名は、江澤英史。出身大学は、千葉大学医学部。医学博士(1997年千葉大学医学博士、論文題目:血液系細胞株K562におけるTPA誘導CD30抑制機構の解析)。外科医を経て現在病理医(独立行政法人 放射線医学総合研究所 重粒子医科学センター病院 臨床検査室 医長)である。2005年に『チーム・バチスタの崩壊(出版本名は「チーム・バチスタの栄光」)』で、第四回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。学会ではオートプシー・イメージング(Ai=死亡時画像検索システム)の重要性と導入を訴え続け、小説の中にもそのメッセージが生かされている。

海堂尊=江澤英史
2008/02/24 11:37
海堂尊さんの本名は、
篠原出版新社のホームページのトピックスに開示されています。
http://www.shinoharashinsha.co.jp/
えいじ
2008/02/24 11:44
海堂尊=江澤英史様、及び、えいじ様
‘コメント=海堂尊氏の本名及び経歴’をありがとうございました。私は、海堂尊氏のメディカル・ミステリーの一読者として、上記、拙ブログを書きましたので、特に海堂=江澤医師の経歴を知りたいと思っているわけではありません。ただ、Aiと著者の主張に関心があり、海堂氏の医師としての経歴をご存知ない方には、有意義な情報だと思います。
以下は、個人的なオシャベリです。海堂氏の出身大学について、二分の一の確率で当たりました。もう一つは、単科大学を考えていました。私のブログに全く無関心な家族が、私がちょっと口にしたことを聞きとがめ、放医研には友人が長く在籍していたけど、何か書いたと言われてしまいました。日常の虚構化がブログだと思っていますが、ごく短いsummary が一人歩きすることもあるという教訓を得ました。
清水町ハナ
URL
2008/02/24 16:46

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